食肉及び食肉製品の理化学検査

亜硝酸根

食肉加工品には、発色剤として亜硝酸ナトリウムが使用される。発色剤としての効果は、肉色の発色、食中毒菌(ボツリヌス菌)の増殖抑制、熟成風味の醸成、脂質酸化の防止などがある。

検査法 食肉製品中の亜硝酸イオンをアルカリ性で抽出し、除たん白剤で蛋白質および脂質を除去した後に発色試薬を加えてジアゾ化反応を利用して発色させ、吸光度を測定し定量する。

水分活性

食品中の水は、自由水と結合水に分類することができる。水分活性とは、食品中の全ての水に対する自由水の割合を表す数値で食品の保存性の指標とされる。微生物が生育に利用できる水は結合水ではなく、自由水である。自由水が多い食品は、微生物が増殖しやすい。

検査法 電気抵抗式の水分活性測定装置を用い、検出器内の水蒸気圧が平衡状態になった時の数値を測定する方法とコンウェイユニット内の水蒸気圧が平衡状態になった時の試料重量の増減より水分活性を算出するコンウェイ法がある。コンウェイ法は、アルコールなど揮発性物質の影響を受けやすい。

pH

pHは酸性からアルカリ性の間に0~14の目盛りをつけて、酸・アルカリの度合いをその目盛りの数字で表すもので、 pH7を中性とし、それ未満を酸性、それより大きければアルカリ性としています。 一般に、食肉のpHは6.0程度で弱酸性です。

検査法 pHメーター(ガラス電極)によりpH測定を行う。食品に直接電極を挿入し測定するか、食品に2,3倍量の水を加えて均質化し、得られた上澄み液についてpHを測定する水抽出法がある。

食肉及び食肉製品の微生物検査

大腸菌群

食品が衛生的に取り扱われたか、病原菌汚染の可能性があるかどうかを評価するための指標菌。食肉製品では、63℃で30分間又はこれと同等以上の加熱殺菌が実施されたか否かを判断する指標菌でもある。大腸菌群はグラム陰性の無芽胞桿菌で、乳糖を分解して酸を産生するすべての好気性または通性嫌気性菌を意味し、必ずしも分類学的に大腸菌に近縁のもののみとはいえない。すなわち、分類学的な用語ではなく、公衆衛生や応用細菌学上で使われる便宜的な用語といえる。

検査法 試料を均質化し、BGLB培地法またはデソキシコレート寒天培地法に供する。疑陽性と判定した場合はさらに選択培地により乳糖を分解する菌を分離し、グラム染色を行い、グラム陰性無芽胞桿菌であればその特性上大腸菌群と判定する。

E.Coli

ヒトや温血動物の腸管の常在菌で、自然界では比較的生存期間が短いので適切な汚染指標となる。E.coliが検出された試料はふん便汚染を被った可能性が高く、腸管系病原菌に汚染されている可能性が示唆される。検査においては、大腸菌群のうちE.coliが最も耐熱性が高いことを利用している。

検査法 試料を均質化し、EC培地発酵管に接種し、培養後ガスの発生の有無を確認する。ガスの発生が認められた場合はさらに選択培地により乳糖を分解する菌を分離し、グラム染色を行い、グラム陰性無芽胞桿菌であればその特性上E.Coliと判定する。

サルモネラ属菌

腸内細菌科、サルモネラ属に属する細菌の総称で、グラム陰性、ブドウ糖発酵性の無芽胞桿菌よりなる。ヒトの疾病の原因になるのは主に温血動物の腸管内に分布するもので、冷血動物や環境に分布するものはヒトに病原性を示さないと考えられている。サルモネラ属菌による食中毒は感染型食中毒の代表的なもので、本菌で汚染された食品を喫食後10~24時間の潜伏期を経て発症する。

検査法 試料を均質化し、増菌培養を行う。その培養液をRV培地及びTT培地に接種して選択増菌培養を行った後、分離用寒天培地に接種して選択分離培養を行い、各種性状試験及びO血清群別試験に供し、サルモネラ属菌の性状を示した場合サルモネラ属菌と判定する。

[簡易測定装置を使用した検査法]
増菌培養液をA.O.A.C.(OMA)認証取得の装置(3M™病原菌自動検出システム)により測定し、陰陽性の判定を行う。陽性となった場合は上記公定法により測定する。

黄色ブドウ球菌

ヒトや動物の腸管内、皮膚、粘膜表面など自然界に広く分布する。黄色ブドウ球菌の一部のものは病原性があり、毒素型食中毒の代表的な原因菌である。食品中で黄色ブドウ球菌が増殖した結果毒素を作り、この毒素が人体に作用して発病する。毒素(エンテロトキシン)は熱抵抗力が強い。

検査法 試料を均質化し、緩衝ペプトン水を用いて10倍段階希釈液を作製する。その0.1mLをそれぞれ2枚の選択分離平板培地に塗抹、培養し、黄色ブドウ球菌と疑われる典型的な集落を計数する。試料1g当たりの菌数を選択分離培地上の集落数と希釈値から算出する。黄色ブドウ球菌と疑われる集落は、純培養を行った後、コアグラーゼ試験等で性状を確認し同定する。

クロストリジウム属菌

人や動物腸管、土壌、海水など自然界に広く分布している。嫌気性菌と呼ばれる偏性嫌気性菌で、酸素存在下では増殖できない。しかし酸素存在下では耐久性の高い芽胞を作って休眠することで、死滅を免れることができる。芽胞の状態にあるときは100℃4時間以上の加熱にも耐え得る。クロストリジウム属菌の一種であるボツリヌス菌は致死率の非常に高い毒素を産生する。食肉製品に添加される亜硝酸塩はボツリヌス菌の増殖を抑制する。

検査法 試料を均質化し、希釈水を用いて10倍段階希釈液を作製する 。試料原液から10倍段階希釈を繰り返し、各段階の希釈液10mlを2枚の嫌気性パウチに分注し、培地を加えて嫌気培養を行い、発生した黒色の集落につき菌数を算定する。

リステリア・モノサイトゲネス

哺乳類、鳥類などの動物のふん便を介して自然界に広く分布している。グラム陽性の通性嫌気的に発育する無芽胞の短桿菌で、4℃以下の低温でも増殖可能である。また、6%以上の食塩に耐性がある。本菌による感染症(リステリア症)は古くから知られている典型的な人畜共通感染症である。

検査法 【定量法】試料を均質化し、損傷菌の蘇生培養を行う。その培養液を酵素基質培地に塗抹培養し、形成集落数を測定する。リステリア・モノサイトゲネス(L.M)と思われる集落を純培養し、確認試験を行い、L.Mと確定する。合計集落数、確認試験に用いた集落数及びL.Mと確定された集落数から、1検体当たりのL.M菌数を算出する。 【定性法】試料を均質化し、前増菌培養を行う。その培養液を分離寒天培地に塗抹培養し、集落の形成を確認する。L.Mと思われる集落を純培養し、確認試験を行い、L.Mの性状を示した場合L.Mと確定する。

食肉及び食肉製品の調査・研究