熟成ハム類、熟成ソーセージ類及び熟成ベーコン類のJAS規格は、平成7年12月20日の制定から20年以上が経過しました。この間格付数量は順調に伸び、特に熟成ソーセージ類は、平成24年には食肉加工品のJAS製品の中で特級ウインナーソーセージに次ぐ代表銘柄となりました。
今回のコラムでは、熟成JAS規格の“誕生“を振り返ってみたいと思います。
特定JAS規格制定の経緯
○ 業界自主基準からスタート
平成2年頃、ハム・ソーセージに特定の成分、製法等を強調した表示が増え、消費者が商品選択に当たり混乱を期しているものが見受けられることから、いわゆる「強調表示」の基準を設定する機運が高まり、農林水産省は日本食肉加工協会(以下「協会」という。)のほか、学識者、業界委員、消費者委員で構成された委員会を設置しました。委員会では当時散見された強調表示の中でも、特に基準制定が望まれた「特選」と「熟成」の用語について検討することとなりました。
協会は、「特選」、「熟成」が表示されている市販品とそれ以外の市販品について分析調査、製造工場への実地調査及びアンケート調査などを行いました。「熟成」表示のある市販品の分析調査では、官能評価、一般成分の他、亜硝酸根、色調(L、a、b)、テクスチャーを分析しました。データを振り返ってみると、熟成表示の有無による違いは、ハム・ソーセージ・ベーコン、いずれも特に官能評価の「香味」に強く現われ、熟成表示のある製品は高い評価が得られていました。興味深いのは、ベーコンとハムの色調で、赤みの程度を表すa値は明らかに熟成表示のある製品が高く、赤み(色)が強く示されていたことです。
委員会では約2年をかけて「特選」、「熟成」の表示基準案を作成し、これを受けて農林水産省はハム類等の特別表示の適正化に資するため、平成4年11月9日に「ハム・ソーセージ類の特別表示基準」として食品流通局消費経済課長名で通達を出しました。これが現在の熟成JAS規格の原型です。
「ハム・ソーセージ類の特別表示基準」における熟成の表示基準は、ハム、ソーセージではJAS上級規格の品質基準、ベーコンはJASベーコン規格の品質基準(ベーコンには等級がなかった。)に適合していること、塩せき液の注入量及び塩せき期間が基準項目とされました。
注入量の基準は現行の熟成JAS規格と同じですが、塩せき期間については、現行JAS規格の7、5、3日間のそれぞれの規定に加え、「これと同等の効果が認められる方法で塩せきしたもの」とされました。これは、原料肉、温度など様々な要因によって必要な日数に幅があるとの意見から付記されたものです。
同時期に、「ハム・ソーセージ類の表示に関する公正競争規約」が制定され、規約においては「客観的な根拠に基づかない「特選」、「熟成」等の用語を表示してはならない。」と定められました。つまり、「ハム・ソーセージ類の特別表示基準」に合致しないものに、「特選」、「熟成」の表示は出来ないこととなりました。
ちなみに、「特選」はJAS特級の品質基準を満たすものとされたため、平成4年当時「特選」表示ができるのは、特級規格のあるハム類(ボンレスハム、ロースハム、ショルダーハム)とソーセージ類(ボロニアソーセージ、フランクフルトソーセージ、ウインナーソーセージ)でしたが、現在はベーコンも特級規格ができたため、特級ベーコンにも「特選」表示ができます。
○ 特定JAS規格第1号へ
消費者、生産者の相互の信頼を高め、適切な食品表示によって食品情報を提供することが従来にも増して強く要請されるようになった背景を受け、平成5年7月にJAS法が改正され、従来の製品JASに加え、特別な生産方法や特色ある原材料に着目したJAS規格、「作り方」JASとでもいうべき特定JAS規格が制定できるようになりました。
農林水産省は、食肉加工業界ではすでに課長通達「ハム・ソーセージ類の特別表示基準」があり、これをベースに「熟成」を特定JAS規格化できる可能性があるとして、JAS規格制定推進委員会を設置し、検討することとなりました。委員会では特定JAS第1号としてどのように特徴を出していくかを焦点として検討されましたが、これをまとめると次のようなものでした。
①課長通達における「熟成の行程」(熟成ハムの例:注入率15%以下、塩せき期間7日間以上)は定着してきており、通達のとおりとする。
②同等の効果が認められる方法で塩せきされたものを対象から除いた。
③ハム類、ソーセージのJAS上級規格、ベーコンの規格の品質基準を満たすこととしていたのを、前二者については特級、後者を上級基準のレベルに格上げした。(平成4年6月のJAS規格改正により、ベーコンに等級が制定された。)
④熟成行程を経ることにより、食品添加物等で限定できるものがあれば制限していく。また、委員会においては、「塩せきによって熟成風味を出す製品だけでなく、乾燥によって風味を出す生ハムなどを特定JASに取り込めないか?」といったことも議論されましたが、食肉製品の熟成には塩せき工程によって熟成風味を醸成させる方法と生ハムのように乾燥工程で熟成風味を醸成させる方法があるが、今回規格案として検討しているのは前者であり、後者について規格を制定しようとするときは、別の規格となるとの結論になりました。
その後諸手続きを経て、平成7年12月20日に熟成ハム類、熟成ソーセージ類及び熟成ベーコン類JAS規格が特定JAS第1号として制定され、平成8年4月には特定JAS認定工場が誕生しました。今では認定工場は60工場となり、ベーコン類等の一般JAS認定工場の6割以上が熟成の認定工場でもあります。また格付数量は、JAS規格制定当初の平成8年は約3,740tでしたが、同10年には約13,580t、同11年には約21,580tと飛躍的な伸びを続け、同25年には約28,880tとこれまでのピークを迎えました。残念ながら同27年は約24,710tとピーク時から4,000t程度減少しましたが、業界の皆様には引き続き格付にご協力いただきますようお願い申し上げるとともに、食肉科研はJAS登録認定機関として一層の普及拡大に努めてまいります。
また、いつかこのコラムで、熟成JAS規格で規定している注入率、塩せき期間の根拠データや定義についてお話したいと思います。



文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
専務理事 猪口由美



