2021 年 12月号では、ドライ(DA)及びウエットエイジング(WA)と呼ばれる2種類の熟成方法で長期熟成した牛肉の熟成に伴う食味性の変化について、官能評価の結果を紹介しました。今回は、本試験で実施した熟成に伴う成分分析の結果及び官能評価との相関についてお話します。

成分検査項目及び試料の調製

官能評価の変化と相関のある成分を探索するため、一般成分は水分、タンパク質、脂肪及びpH、呈味成分は遊離アミノ酸、遊離ペプチド、核酸関連物質(イノシン酸・ヒポキサンチン)を分析しました。各試料は、官能評価で使用したロース芯中心部を除いた周辺部をフードカッターで均一化し調製しました。

成分検査結果(図1 抜粋)

(1)一般成分及びpH

◆水分・タンパク質・脂肪
水分は、DAにおいては熟成に伴い減少し、熟成70日目に大きく減少(△13.6%)しました。この結果は試料が熟成期間中に空気に触れることにより乾燥したことを示しています。また、WAにおいても僅かに減少しましたが、これは、試料を分析に供するまで凍結保管していたため、解凍時にドリップとして水分を失った結果と推定されました。タンパク質含量は熟成に伴う変化は認められませんでしたが、脂肪含量はDAに
おいて熟成に伴い増加しましたが、試料の乾燥に伴い濃縮したものと考えられました。

◆pH
DA は熟成に伴い上昇傾向にありましたが、WA では熟成に伴う変化は認められません
でした。pHの値は酸味の強さに影響すると考えられますが、官能評価の結果では酸味の強
さは熟成により変化しておらず(データ未掲載)、本結果で得られた程度のpHの変化はヒ
トが感知しない程度のものと推定されました。

(2)呈味成分

◆グルタミン酸(Glu)、遊離アミノ酸(18種)
グルタミン酸と遊離アミノ酸18種の総量は、DA、WAとも熟成の時間経過とともに増加しましたが、その程度に違いが認められました。DAの遊離アミノ酸の増加は、水分が減少し濃縮したと考えられる割合よりも顕著に大きく、うま味を呈する Glu含量は熟成開始時の5.4mg/100g から70日間で64.5mg/100gにまで達しました。一方、WAでは熟成開始時の4.1mg/100g から 37.8mg/100g となり、DA よりも増加の程度は低い結果となりました。

◆遊離ペプチド
ペプチド総量は、DA、WAともに熟成に伴い50日目まで増加した後は横ばいとなり、熟成方法による差は認められませんでした。このことから熟成中のペプチドの生成は、同一温度(本試験:2.0℃)で熟成した場合、熟成方法の影響は受けないと推定されました。また、熟成40日目以降には殆ど増加していないことから、熟成が長期間になるとタンパク質からペプチドへの分解はあまり進まないと考えられました。

◆核酸関連物質(イノシン酸・ヒポキサンチン)
イノシン酸は、DA、WAともに熟成に伴い減少し50日目で殆ど消失しました。一方、イノシン酸の分解物であるヒポキサンチンは、DAでは40日目、WAでは60日目まで増加し、その後は横ばいとなりました。この熟成に伴うヒポキサンチンの増加は、官能評価で認められたうま味およびコクの変化と非常に似た挙動を示しました。

熟成に伴う成分変化と官能評価との相関(表1参照)

熟成に伴う成分変化と官能評価との相関係数をみると、ヒポキサンチン及びペプチド総量は、DA、WAどちらの熟成方法においても全ての官能評価項目と強い正の相関(R>0.8)を示しました。特に、ヒポキサンチンは相関が強く、長期熟成牛肉の熟成適期を示す指標となる可能性が示唆されました。

うま味強度(UI)と長期熟成肉のうま味の強さ(図2参照)

うま味物質「グルタミン酸」と「イノシン酸」の濃度からうま味の相乗効果を表す「うま味強度」を算出すると、DAでは10日目、WAでは20日目でうま味強度が最大となり、それ以降は下降しました。官能評価における「うま味」の強さとの相関係数は、DA、WAともマイナス(負の相関)を示したことからも、長期熟成によりもたらされる食肉のうま味は、うま味物質の濃度だけに依存しているのではないと考えられました。

これまでの結果から、各種熟成方法に応じた熟成適期があり、この適期を遊離ペプチドあるいはヒポキサンチンの濃度を測定することによって把握できる可能性が示されました。これらの物質により食肉の熟成適期を判断することができれば、熟成肉の美味しさは保ちながら歩留まりを向上させることが可能となるかもしれません。

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部理化学部 吉田由香