最近では、長期熟成した食肉、いわゆる『熟成肉』のおいしさが話題となる一方で、長期熟成に伴う食味の変化と呈味成分の関係についての知見は少なく、また、現状では熟成適期を判断する客観的な指標はありません。
食肉科研では、2種類の熟成方法で長期熟成(最長70日間)した牛肉の食味の向上に関与する因子を明らかにすることを目的とし、熟成に伴う食味の変化および呈味成分を経時的に分析・評価、その相関について調べました。
長期熟成とは?
食肉の熟成は、と畜後に硬直した筋肉の軟化を主な目的としていますが、同時に熟成によって風味が改善することも知られています。と畜後に死後硬直した「筋肉」は、硬く食用に適さない状態ですが、低温での貯蔵、すなわち「熟成」により解硬され、「食肉」となります。解硬には通常、牛で約10日、豚で5日、鶏で0.5日の解硬期間を要します。解硬後の食肉をさらに長期間熟成すると、風味豊かな付加価値の高い食肉になります。
長期熟成方法(ウェットエイジングとドライエイジング)
長期熟成方法には主に2つの方法があります。一つは「ウエットエイジング」と呼ばれ、食肉を通気性のない資材で真空包装して低温熟成をする方法、もう一つは「ドライエイジング」と呼ばれ、空気にさらした状態で温度、湿度、送風を管理しながら熟成する方法で、独特の香り(natty and meaty)が醸成されるのが特徴です。どちらの方法も熟成期間の延長は、風味の改善を促すと考えられていますが、「ドライエイジ
ング」は、水分のロスに伴い収縮する、表面に発生するカビをトリミングするため歩留まりが低下する、取り扱いを誤れば腐敗が進行し品質や安全性を損なうリスクがあるなどの欠点があります。ウエットエイジングは、ドライエイジングの欠点を抑制しますが、熟成した食肉に特有の風味を十分に引き出すという点では、不十分であると言われています。
供試試料について
試料には国産交雑牛(と畜月齢26ヶ月)の3頭を用いました。左右のサーロインの右側をドライエイジング(DA)、左側をウエットエイジング(WA)し、最長70日間熟成しました。各試料は熟成10日ごとに厚さ5㎝ずつにカットし、採取したロース芯の中心を官能試験に、その周辺を成分分析(水分、脂肪、タンパク質、pH、遊離アミノ酸、核酸関連物質、遊離ペプチド)に供しました。
官能試験方法及び結果
(1)官能試験の方法
同じ大きさに整形した各試料をホットプレート上で加熱調理し、調理後の試料を直ちに当研究所の分析型パネル5名が評価しました。
評価方法は特性プロファイル法を用い、同一個体の熟成0日目をコントロール(0点)とし、熟成した試料の食味を-3点~+3点の7段階で評価しました。評価項目は、基本五味(塩味、甘味、酸味、苦味、うま味)、コク、熟成香および軟らかさとしました。コクは、濃厚感(複雑さ、あつみ)および持続性(うま味の後味)の強さを評価しました。
(2)官能試験結果(図1 抜粋)
苦味、うま味、コク、熟成香および軟らかさについては、熟成に伴う変化が認められましたが、塩味、甘味および酸味は変化がありませんでした。

以上の結果から、熟成香は熟成期間に依存して増強される傾向がみられましたが、味および食感は、どちらの熟成方法とも期間が長いほど改善するわけではなく、長期間になるとその変化は緩やかになる傾向が認められました。特に、DAでは40日~50日目をピークとしてそれ以降はうま味が低下する傾向がありました。
次回は、熟成に伴う一般成分及び呈味成分の結果及び官能スコアとの相関について紹介いたします。




文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部理化学部 吉田由香



