令和2年の東京都食中毒発生状況について、確定結果が東京都ホームページ(食品衛生の窓*)に掲載されています。令和2年の事件数は114件(昨年同期119件)、患者数は3,359人(昨年同期865人)、死者はいませんでした。
新型コロナウイルス感染拡大による1回目の緊急事態宣言期間に当たる4月、5月に限ると、前年に比べて事件数は半数、患者数も約7割と、明らかに前年より少ない状況でした(2019年4月、5月の事件数は17、患者数は110人)。このことは、例年食中毒が多く発生している施設である飲食店等の営業自粛によるものだけでなく、かつてないほどの手洗いの励行、アルコール消毒が行われたことが食中毒発生予防において
も効果をもたらした結果と言えるのではないでしょうか。残念ながら8月になって、患者数2,500人以上にのぼる大規模食中毒が発生しました。
その結果、令和2年の食中毒件数はほぼ前年並みに留まったものの、患者数は前年の約3.8倍となりました。
今回は、この8月に起きた大規模食中毒を振り返ってみたいと思います。
*https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/tyuudoku/r2_kakutei.html

仕出し弁当で発生した大規模食中毒
東京都の発表によると、原因施設は大田区の仕出屋で、原因食品は不明ながら仕出し弁当を喫食したことによるものとされています。患者数は2,548人、病因物質は毒素原性大腸菌O25(LT産生)でした。
『毒素原性大腸菌O25』というのは聞き慣れないかもしれません。下痢などの症状を起こす大腸菌のことをひとまとめにして「下痢原性大腸菌」と呼んでいて、症状を起こす作用により腸管出血性大腸菌、毒素原性大腸菌、腸管侵入性大腸菌、腸管病原性大腸菌などいくつかに分類されます。
食中毒事件の統計では「腸管出血性大腸菌」と「その他の病原大腸菌」の2種類にまとめられています。「その他の病原大腸菌」のうち食中毒発生が多いのは『毒素原性大腸菌』で、年間5~25件程度発生しています。「その他の病原大腸菌」による食中毒は腸管出血性大腸菌と同様に、人や動物の腸管に由来した菌で汚染された食品や水が原因となります。過去には、生野菜が菌に汚染されていたり、汚染された沢水や井戸水が消毒不十分であったり、調理従事者の手指を介して食品が汚染されたことが原因と推定される事例が起きています。
『毒素原性大腸菌』は、易熱(いねつ)性エンテロトキシン(LT)、耐熱性エンテロトキシン(ST)の両方、またはいずれか一方を産生して下痢を引き起こします。易熱性エンテロトキシン(LT)は60℃、30分の加熱で活性を失いますが、耐熱性エンテロトキシン(ST)は100℃、15分の加熱にも耐えます。
今回検出された毒素は(LT産生)とのことですので、食材を加熱すれば事故は起きなかったかもしれませんが、仕出し弁当メニューには加熱しない食材が含まれていました。

当該仕出屋のホームページでは、「食中毒事故に関する再発防止対策」が報告されています。そこには、保健所から、原因食品はスケソウダラのソテーナッツソースに使用した「玉ねぎのみじん切り」の可能性が高いとの報告を受けた、とあります。一部の玉ねぎの洗浄が不十分で、今回の事故を発生させた可能性が高いとの結論を受け止め、再発防止策を講じたとあります。その1つとして、初発菌数が高いとされる野菜については、加熱してから使用する作業工程に変更し、千切りキャベツなど非加熱で提供する生鮮野菜等については、カット作業後に再度洗浄し、洗浄効果を高めることにしたそうです。
保健所の立ち入り検査において(1)手指消毒用のアルコール製剤を常に使用できる状態にしておくこと、(2)床からの撥ね水等による汚染を防止し、衛生的な作業場にすること、(3)次亜塩素酸水は使用前に塩素濃度を測定し記録を残すこと、などの指導を受け、次のような対策を取ったと報告されています。
(1)すべての手洗い用シンクと作業場の手が届く範囲にアルコール製剤を設置。
(2)作業工程を点検し、すべての作業を床から60㎝以上の高さに変更。また床の乾式状態を維持するよう周知。
(3)塩素濃度及びpH値の測定を食材毎に確認して記録する体制に変更。(20~60ppm、pH2.7以下)
その他にも、大釜を使った加熱作業手順の見直し、手洗いの手順等再指導や荷台の温度管理の改善など、二度と事故を起こさないための様々な改善策が取られています。
これから細菌性食中毒が発生しやすい夏場に向かいます。起きた事故を教訓として衛生管理の向上に生かしましょう。

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
専務理事 猪口由美



