前回のコラムでは、2018年度から2か年に渡って実施した、わが国の冷蔵豚肉の賞味期間の実態調査結果として、-1℃保存で最長52日間、平均46日間の賞味期間が得られたことを紹介しました。
2018年度では、生菌数はそれほど増えていないのに、『肉質の脆弱化』により不適と判定された試料が多く見られましたので、2019年度は肉質に影響を及ぼすと考えられる、pH、水分含量、TM値(Transmission Value)などの理化学検査や乳酸菌数検査、施設の落下細菌検査等を併せて実施しました。今回は、その一部をご紹介します。

理化学検査

肉質に締まりがなく水っぽい性状を示す肉ではpHが低くなります。pHの測定結果は、平均すると-1℃保存では5.72、1℃保存では5.69で、異常値はありませんでした。前年度の調査結果とは異なり、2019年度は『肉質の脆弱化』が起きた試料は1点だけでしたので、肉質とpHとの関係は確認できませんでした。温度帯別では1℃保存が-1℃よりも低く、有意の差がありました(p>0.05)。
水分含量の平均値は-1℃保存では72.4%、1℃保存では71.9%で、日本食品標準成分表2015年版(七訂)の豚ロース中型種肉・赤肉・生(71.2%)と比べるとやや高い結果でしたが、異常値はありませんでした。1℃保存では時間経過とともに水分含量が減少する傾向が見られ、このことは保存温度と保水性の関係を示すものと考えられました。豚ロース肉は肩側、中央、モモ側の3箇所を測定しましたが、-1℃保存の平均値は中央>モモ側>肩側の順で高く、それぞれに有意の差がありました(p>0.05)。
PSE肉を判別する手法の1つに、タンパク変性度合いを示すTM値が用いられます。豚肉では30以下を示す場合は正常肉、30~80では正常肉とPSE肉の中間型、80以上はPSE肉とされています1)。TM値が80以上の試料は、-1℃保存では3点、1℃保存では6点ありました。これらの試料に『肉質の脆弱化』は起きていませんでした。温度帯別の平均値で比較すると、1℃保存は-1℃よりも高く、有意の差があり(p>0.05)、TM値は保存温度により差があると考えられました。
採取箇所(肩側、中央、モモ側)別では、-1℃保存、1℃保存、どちらも肩側>中央>モモ側の順で高く、肩側とモモ側では有意の差がありました(p>0.05)。TM値と肉質の関係性は確認できませんでしたが、TM値が80以上の9点のうち、7点が保存40日目以降に現れたこと、採取箇所別では肩側に多かったことは、新たな知見となりました。

乳酸菌数

今回の保存試験は、試料の形態が真空包装した豚ロース肉でしたので、検査は、微好気培養と嫌気培養の2とおりの方法で行いました。微好気培養は、O2濃度6~12%、CO2濃度5~8%の微好気環境で発育する乳酸菌数を測定します。
微好気培養では、-1℃保存の場合、実施した3施設のうち2施設の試料は、ほとんどが試験最終日まで300未満でした。1施設の試料の中には40日目以降次第に増加した試料がありました。一方1℃保存では、3施設のうち2施設の試料は30日目以降増加し始め、60日目では2.6×107cfu/gとなった試料もありました。
嫌気培養でも微好気培養と同様の傾向が見られ、どちらの検査方法であっても、-1℃より1℃保存が明らかに高い菌数となり、乳酸菌数は温度に依存する結果となりました。
従来20日間とされてきた賞味期間が52日間程度まで延長されれば、冷蔵豚肉の輸出に向けて大きな強みとなり、海外市場の拡大が期待されます。その前提として施設の衛生管理、衛生的な取扱い、特に温度管理の徹底は言うまでもありませんが、出荷以降、消費者の手に渡るまでの切れ目ないコールドチェー
ンが重要課題と言えます。

1) 坂田亮一他:PSE性状を示す豚肉の加工適性:保水性,色調および物性について,日豚会誌41巻2号, p78(2004年6月)

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
専務理事 猪口由美