日本産豚肉は、香港、シンガポール等の外食店向けを中心に、ロース、肩ロース、バラ等の部位が輸出されていますが、その約97%は冷凍です。冷蔵が少ない要因として、冷蔵の場合の賞味期間は20日前後と短く、在庫管理が難しいことなどが挙げられています。
具体的には、冷蔵豚肉の賞味期間を現行の20日*から、50日程度(輸入冷蔵豚肉の賞味期限)まで延長することができれば、多様な販売方法や船便によるコスト削減が可能となります。
そこで、食肉科研は、冷蔵豚肉の賞味期間の延長に向け、クリアすべき技術的課題を検討することとし、2018年度から2か年に渡り、全国の延べ5つの食肉施設にご協力いただいて、わが国の冷蔵豚肉の賞味期間の実態調査とともに、豚肉の賞味期間に影響を与える処理施設の衛生環境等を調査しました。その一部をご紹介します。

保存試験結果

2018年度は、4施設から、真空包装された豚ロースブロック肉を提供いただき、流通過程でも実行可能な0℃及び4℃の2つの温度帯で保存し、「期限表示のための試験方法ガイドライン〔食肉(食肉加工品(半製品)を含む。)〕」(以下「期限表示ガイドライン」という。)の試験方法に従って官能検査及び細菌数検査を実施しました(表1)。

その結果、0℃保存では、最長で40日間の可食期間でした。賞味期間は可食期間に安全係数(0.8以下)を乗じて得るとされていますので、32日間、ということになりました。しかし、施設間でバラツキがあり、平均では26日間でした。4℃保存では、賞味期間の平均は23.5日間で、4℃保存での延長は難しいと考えられました。また、どちらの温度帯においても、細菌数が300未満/gでありながら、ドリップの濁りや肉質の脆弱化によって異常と判定された試料が多くありました。
以上の結果から、賞味期間の延長のためにはドリップの抑制と肉質の保持が課題と考えられました。具体的には次の改善点に取組み、2019年度も引き続き賞味期間の延長に向けての調査を実施しました。
(1) 豚ロース肉を分割した影響を排除するため、豚ロース肉1本のまま真空包装して保存試験に供する。
(2) 試料の真空包装に用いる資材は、厚みがあり酸素透過性の低い材質のもので統一し、真空包装時の減圧を高めること。可能な限りシュリンクチラーを施すこと。また、肉質の脆弱化にアルコール多用の影響が考えられたため、食肉処理施設にはそれを排除するよう依頼する。
(3) ドリップの発生や濁りを抑えるため、輸入チルド肉で用いられている「ドリップシート」を包装袋内に敷き、その効果を確認すること。
(4) 保存温度は2区分とし、1つは輸入チルド肉と同じ-1℃とすること。豚ロース肉を保存するインキュベーターは±1℃程度の温度のバラツキが生じる。そのため、もう1区分の温度は1℃とする。2つの温度設定により-2~2℃の温度範囲での保存となる。
(5) 肉質の脆弱化の要因としてpHの異常や水分過多が起きていないかを調査する。また、試料がPSE肉の傾向にあるかどうかを把握するため、タンパク変性の程度を把握できるTransmission Value(TM値)(以下「TM値」という。)を調査する。また、官能検査に影響を及ぼす可能性がある乳酸菌数を測定する。
(6) 以上の試験を、季節変動を勘案し、1施設当たり2回繰り返し実施すること。
2019年度に3施設にご協力いただきこれらの課題に取り組んだ結果、-1℃保存において、最長で52日間、平均46.1日間の賞味期間が得られ、前年度に比べて大幅に延長されました(表2)。1℃保存においても‐1℃保存と大きな差はありませんでした。

*:「期限表示のための試験方法ガイドライン〔食肉(食肉加工品(半製品)を含む。)〕」(以下「期限表示ガイドライン」という。)に示されている、期限表示フレーム「1.原料肉(パーツ)、B豚肉、保存温度0℃で真空包装した場合」による。

前年度よりも大幅に、安定的に賞味期間が延長された要因を、前述の改善点から検証しますと、まず、一般に部分肉をブロックに切断すれば賞味期間は短くなりますので、豚ロース肉を1本のまま試験に供した効果があったと考えられます
次に、真空包装袋を、厚みがあり酸素透過性の低い材質のもので統一し、真空包装時の減圧を高めたことによって、時間経過とともに生じる包装袋内の緩みの進行が抑えられ、食肉の劣化及びドリップの発生抑制に効果があったと考えられました。また、いずれの施設でも1回目は2回目よりも短い賞味期間となりましたが、これは、1回目はドリップシートが豚ロース肉全体を覆うように敷かれておらず、ドリップの吸着が不十分であったためと考えられます。「ドリップシート」の適正使用は、ドリップ発生の抑制に大きく関与すると言えます。
保存温度については、-1℃と1℃の差はほとんどありませんでした。加えて、季節変動を考慮し、1施設につき2回繰り返し試験しましたが、外気温の影響を受けることはありませんでした。
2019年度の試験では、前年度散見された「肉質の脆弱化」が起きた試料は1点だけでした。このことは、掲げた改善点への対応の総合的な効果と考えられます。豚ロース肉を提供いただいた食肉処理施設の衛生環境の調査の結果、すべての施設において清掃等は充実しており、冷蔵庫や処理中の肉温管理は徹底されてい
ました。施設設備の衛生管理、食肉の衛生的な取扱いが賞味期間確保には欠かせないことは言うまでもありません。
今回の試験によって50日程度の賞味期間を確認できたことは、冷蔵豚肉の輸出に向けて大きな強みとなり、海外市場の拡大が期待されるところです。2019年度に実施した、賞味期間に影響を与えると考えられたTM値及び乳酸菌数等の調査結果については、次回ご紹介いたします。

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
専務理事 猪口由美