厳しい財政状況の中での調査・研究

2011年3月の東日本大震災では、一晩皆で眠れない夜を過ごしたものの、幸い被害はありませんでした。一部のJAS認定工場が被災し、JASマークを印刷する登録印刷工場も東北に多くあり、甚大な被害によって廃業されたところもありました。どこの検査機関も同じだったと思いますが、計画停電によって職員が通常の出勤ができず、また、電力不足への不安など、緊張した中で検査を続けていました。(恵比寿は計画停電の範囲外でした。)
前回のコラムでお話した、輸入食品検査に追われた日々は、長くは続きませんでした。2011(平成23)年後半になると、輸入食品検査は減少を始め、連動するように、一般依頼検査も減少し始めます。厳しい中でも細々と調査、研究事業を続けることができました。記憶にある方も多いと思いますが、2011(平成23)年4月に発生した飲食店チェーン店での腸管出血性大腸菌食中毒を受けて、生食用食肉に関する規格基準(成分規格:腸内細菌科菌群が陰性。肉塊の表面から深さ1cm以上の部分までを60℃で2分間以上加熱する方法又はこれと同等以上の効果を有する方法で加熱殺菌しなければならない など)が制定されました。食肉科研は、全国食肉事業協同組合連合会からの委託を受け、厚生労働省が定めた生食用牛肉の加工条件と同等の効力を有する条件を見出すための試験を行いました。
この試験を機に、腸内細菌科菌群の検査法を開発しました。また、非加熱食肉製品の規格基準に国際規格で定めるリステリアの基準を採用することが厚生労働省で検討され始めましたので、2013(平成25)年にはリステリア制御検討委員会を設置して、専門家の助言を受けながら、企業4社及び食肉科研で非加熱食肉製品のリステリア制御に関する共同試験を開始しました(後に共同で日本食品科学工学会誌に発表)。共同試験は、それぞれの施設で同一条件の下に生ハムを製造し、リステリア・モノサイトゲネスの増殖に関与する水分活性及び保存温度と3つの制御要因(乳酸ナトリウム、ナイシン、くん煙)を探るものでした。競合する企業が共同で取り組んだ成果を論文にまとめたことは特筆すべきことと思います。また、このときの経験は食肉科研の財産になりました。

模 索

2012(平成24)年5月に新村理事長が退任され、後任に服部昭仁理事長が就任されました。その頃から財政状況に陰りが見え始め、2013(平成25)年にはこれまでにない大幅赤字に転落しました。
支出削減に努めたものの、輸入食品の減少は大きな打撃となり、当時服部理事長は収入確保に大変苦心されました。一方で、食肉科研は食肉、食肉製品という専門分野を生かしていくべき、今後は国際的に通用する検査機関が求められるとの判断から、食肉製品特有の規格基準項目である亜硝酸根についてISO/IEC17025の認定取得を決断されました。ISO/IEC17025は、国際的な試験所認定規格で、試験所が正確な試験結果
を生み出す能力があることを審査機関が認定する規格です。
品質マニュアルの作成や不確かさの評価など、当時の食肉科研にはハードルが高かったのですが、この認定を受けることによってお客様から信頼され、それが食肉科研の展望につながる、という信念のもと、015(平成27)年3月に認定取得にこぎつけることができました。

脱 却

財政状況が悪化する中、2014(平成26)年10月、食肉科研の非常勤理事であった森田邦雄氏が専務理事に就任されました。森田専務理事は就任にあたり、支出を抑えてバランスの取れた収支にするためには全員が協力しなければならないとの決意を我々に示されました。支出を抑えるための意見交換は、職員にとっては戸惑うことが多かったと思いますが、食肉科研が置かれている状況を全員が共有することにつながったと
思います。
翌2015(平成27)年1月には、営業力強化を図るため組織変更し、広く食肉科研を知っていただくために、同年5月にこの『食肉科研(KAKEN)コラム』をスタートしました。ホームページを充実させ、食肉産業展を活用するなどして食肉科研の宣伝に力を入れるとともに、お役に立つ情報を提供する『行政情報サービス』の発信も始めました。社員、会員各位のご協力に加え、食肉科研役職員の努力の甲斐あって、2015(平成27)
年半ばになると一般依頼検査が少しずつ持ち直し、マイナスからの出口が見え始めます。翌年4月の理事会では、「各社員ができるかぎり食肉科研に検査を依頼し、経営を安定させる必要がある。」 とのご発言があり心強く有り難かったことを覚えています。
2016(平成28)年5月、服部理事長の退任後、森田新理事長の指揮の下、私は専務理事を拝命いたしました。ちょうどその頃、一般依頼検査料金の見直しを行いましたが、それにはお客様への丁寧な説明が必要でした。森田理事長とともに多くのお客様を訪問させていただきました。そこで実感したのは、お客様は検査の品質保証は当然のこととして要求されているということと同時に、食肉科研は社員、会員の身近でお役に
立つ検査機関であるべきということでした。
この頃から、一般依頼検査の検査項目や検査対象食品が多岐に渡るようになり、特に『食肉のおいしさ評価』についてのご依頼が増加し始めました。現在も豚肉を中心に、食肉のおいしさの訴求ポイントを探る試験のご依頼を多くいただいております。また、食品表示基準の施行が2020年と迫っていることから、栄養成分検査のご依頼も多く、現在日本食肉協議会の助成により、食肉科研での栄養成分検査の費用負担を軽
減する事業を実施しております。(次年度も実施しますのでどうぞご参加ください。)おかげさまで2017(平成29年)度は黒字に転換することができ、2018(平成30)年5月には木下良智新理事長をお迎えし、新体制がスタートして間もなく1年を迎えます。ISO/IEC17025については、昨年11月に更新審査を終了することができました。登録検査機関、JAS登録認証機関としてもその資格を維持できております。

結びに


無事に15年目を迎えられ、安堵する気持ちと同時に、僭越でございますが、困難の中食肉科研を背負ってこられた服部元理事長、財政立て直しのためにご尽力いただいた森田前理事長に感謝申し上げます。そして、何より、食肉科研を必要としていただいた社員、会員各位に改めて御礼申し上げます。
これから先も様々な困難があると思いますが、食肉科研は役職員一同力を合わせて皆様から頼りにされる検査機関であるよう努力してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
専務理事 猪口由美