食肉科研コラム#39異物2(2018年10月号)で予告したとおり、今回は、食肉製品に認められたミオグロビンに関連する変色事例を取り上げます。

発色剤とミオグロビンとの関係

食肉製品の変色の原因を考える場合、その食品に亜硝酸塩や硝酸塩など発色剤使用の有無がポイントとなります。これは、食肉製品の発色がミオグロビンと発色剤の反応により起こるためです。ここで、亜硝酸塩等による発色の仕組みについて確認しておきましょう。以下の様に食肉製品(発色剤あり)の色調は桃紅色に固定されます。

発色剤を使用した加熱食肉製品の変色の事例

変色事例1及び2の写真については、食肉科学技術研究所ホームページの「科研コラム欄 ♯43」をご参照下さい。カラー写真を掲載しています。

事例1:発色剤を使用した食肉製品の退色 原因:酸化によるニトロシルヘモクロムMbからフェリヘモクロムMbへの変化

酸化によってロースハムの色調が退色している事例です(写真1右)。食肉製品の発色は、前述のように添加した亜硝酸塩から生じる一酸化窒素がミオグロビンの鉄に結合した後、加熱変性により形成される“ニトロシルヘモクロム”と呼ばれるミオグロビンに起因します。この時の鉄は還元状態(Fe2+)で、製品の色調は桃紅色です。この一酸化窒素とミオグロビンの結合は比較的安定していますが、この結合が解離すると鉄が酸化状態(Fe3+)となり、製品は褐色を呈するようになります。この一連の変化を“退色”と呼びます(表1)。酸化を促進する要因は、異物コラム(#39)で紹介した食肉の酸化(メトミオグロビンの形成)と同様に、「酸素」「光」「温度」等によりますが、その他の退色の要因として、発色剤を使用した食肉製品では「発色剤の過少添加」による発色不良も考えられます。この退色が製品中で部分的に生じた場合は、褐色が黄色あるいは緑色に見えることがあり、後述の事例と区別する必要があります。

事例2:発色剤を使用した食肉製品の緑変 原因:ミオグロビンにおけるプロトポルフィリンIXの化学的変化

加熱食肉製品の緑変は、加熱直後、貯蔵中など様々な場面で認められています。硫化水素由来の緑変であれば、硫黄様の臭いが原因の特定につながりますが、それ以外の要因による緑変も知られており(写真2)、主にミオグロビン中のプロトポルフィリン骨格の化学的変化によるものと考えられます。
ミオグロビン中の鉄はプロトポルフィリンIX(PP-IX)に配位する形で存在しています(図)。この鉄とPP-IXの複合体を“ヘム”と呼びますが、ヘム中のPP-IXの化学的な変化が色調に影響します。PP-IXが酸化され、コールミオグロビン等へ変化すると緑色を呈しますが、さらなる酸化を受けると、PP-IXの環構造が開裂し鉄も失われます。この状態の物質はビリベルジンと呼ばれ、これも緑色を呈します。ちなみに、胆汁の色調はこの物質に由来し、レバーが緑色を呈する現象の原因物質です。さらに酸化が進行し、PP-IXがトリ- 、ジ-、モノ-ピロールへと分解すると、色調は青緑色→黄色→無色に変化します。したがって、食肉製品において同様の色調変化が起きることは不自然ではなく、PP-IXの酸化反応によるものであり、この酸化反応を引き起こす要因が、緑変の要因となります。

亜硝酸塩は、緑変を引き起こす量は食品衛生法の基準値を大きく上回ることから、これを要因とする緑変が実際に起こる頻度は低いかもしれません。一方、酸化防止剤として使用されるアスコルビン酸は、鉄との共存下で酸化をもたらすラジカルを生成し、これによって酸化反応が促進します。このような環境は、製造工程において充分起こりうると予想されることから、どちらも原料肉及び添加物の正しい計量が重要と考えられます。
また、微生物が産生する過酸化水素が酸化の要因となることが知られています。例えば、真空包装された加熱食肉製品(嫌気的条件下)に乳酸菌が増殖していた場合、開封後の製品中で乳酸菌は他の微生物の増殖を阻害しようと、空気中の酸素を使って過酸化水素を産生します。このとき未加熱の食肉であれば、肉由来の酵素であるカタラーゼの作用によって過酸化水素は消去されますが、加熱肉の場合には、カタラーゼは失活しているため、過酸化水素は消去されず酸化反応へと進みます。このように加熱食肉製品に生じる緑変のメカニズムは、非常に複雑です。

次回の異物コラムでは、今回紹介できなかった発色剤を使用していない食肉製品に認められたミオグロビンに関連する変色事例を取り上げる予定です。

*一部引用: 試験成績書№49 「食肉および食肉製品における変色p25~34」(一般社団法人 食肉科学技術研究所 平成30年7月)

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部理化学部 吉田由香