食肉科研コラム#14(2016年6月号)では、異物検査の事例として、目に見える付着物や豚ロース肉緑変の事例を紹介しました。最近は食肉科研にご依頼いただく異物検査の傾向として、食品に生じた「変色」についてのご相談が増加しています。そこで今回は、食肉及び食肉製品の一部または全体の色調に異常(変色)が生じている事例のうち、特に食肉の色素タンパクである「ミオグロビン」に関連した変色を紹介します。

お肉の赤色はどこに由来するのでしょう? ミオグロビンとの関係

食肉の色調は、肉中に存在するミオグロビンタンパクという色素タンパクに由来します。ミオグロビンは鉄イオンを有しており(図1)、この鉄イオンの還元・酸化の状態や結合している物質によって、その色調が変化します。(表1)

鉄の状態は、還元(Fe2+、2価)と酸化(Fe3+、3価)の2つに分けられ、この鉄の還元・酸化の状態と食肉の色調の関係は、“還元状態-赤色”、“酸化状態-褐色”となります。この時のミオグロビンを、前者はデオキシミオグロビン、後者はメトミオグロビンといいます。さらに、還元状態には2種類あり、鉄に酸素が結合しているかどうかで分けられ、酸素が結合している状態のミオグロビンをオキシミオグロビンと呼びます。この時食肉の色調は鮮やかな赤色(鮮赤色)を示し、酸素の結合がない状態の色調(紫赤色)と区別されます。
例えば、真空包装された食肉を袋から取り出すと、その色調は暗い赤色から鮮やかな赤色へと変化します。ミオグロビンの鉄に酸素が結合することによって、デオキシミオグロビンからオキシミオグロビンへと変化するためです。このように食肉の色調は、ミオグロビンの「鉄の状態」と深く関係しているのです。

ミオグロビンに関連した変色の事例

食肉におけるミオグロビンに関連した変色の事例を見てみましょう。

事例1:食肉に認められた褐変(写真1)                       原因:酸化によるメトミオグロビンの割合の増加

写真は、酸化によって牛肉の色調が褐変している事例です(写真1右)。

食肉は酸化されることによってその色調は赤色から褐色に変わります。この現象は“メト化”と称され、鉄が酸化状態(Fe3+)にあり、この時のミオグロビンは“メトミオグロビン”です。メトミオグロビンが存在すること自体は異常ではありませんが、この割合が増加しメト化率(ミオグロビンに対するメトミオグロビンの割合)が 5060%を超えると褐変が生じるという報告があります。さらに、この褐変が生じた食肉では、たいてい酸化臭 (Rancid odor)を伴います。酸化臭は脂質の酸化に由来する現象で、このように褐変化し酸化臭を伴う食肉は、腐敗ではありませんが、“鮮度が悪い”と言えます。

事例2:食肉に認められた緑変(写真2)                       原因:硫化水素とミオグロビンの反応によるスルフミオグロビンの形成

食肉において微生物が増殖すると、アミノ酸の分解が進み、これが硫黄を有するアミノ酸の場合、硫化水素(H2S)を発生します。硫化水素の臭い(イオウ臭)はいわゆる腐敗臭ですが、この硫化水素がミオグロビンの鉄と反応しスルフミオグロビンが形成されると、その食肉は緑色を呈します(写真2)。ただし、その色は鮮やかな緑色ではなく、同時にメトミオグロビンも混在することなどから、スルフオミグロビンの形成についての知識やそれに由来する変色を経験していないと褐色に見えるかもしれません。しかし多くの場合この事例は、硫化水素による腐敗臭を伴うため、メトミオグロビンを要因とする変色事例とは識別が可能となります。あるいは、理化学的な分析によっても識別は可能です。
また、前回の異物のコラムで紹介したシュードモナス属菌で産生された色素による緑変は、変色の原因にミオグロビンは関与しておらず、現象としてはどちらも「緑変」ですが、変色が生じている部分とその色調の観察や変色に伴う臭いの種類、励起光照射試験等の理化学試験から両者の識別が可能となります。

このように、変色の原因を推定することは難しく変色についての知識と経験が必要になります。食肉、食肉製品の異物や変色に関するクレームでお困りの際は、ぜひ当研究所にご相談ください。次回の異物コラムでは、食肉製品に認められたミオグロビンに関連する変色事例を取り上げる予定です。


*一部引用: 試験成績書№49 「食肉および食肉製品における変色p25~34」(一般社団法人 食肉科学技術研究所 平成30年7月)

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部理化学部 吉田由香