厚生労働省調査では、平成29年度の食中毒原因物質別事件数はカンピロバクターがノロウィルスを上回り1位となりました。食品安全委員会では、2006年10月に「鶏肉を主とする畜産物中のカンピロバクター・ジェジュニ/コリ」のリスクプロファイルを公表しました。2009年6月にはカンピロバクター食中毒低減に向けた対策等についての評価書も示されました。しかし、その後もカンピロバクター食中毒が依然として食中毒統計の上位に位置しているため、評価後の知見を収集し、食品健康影響評価のためのリスクプロファイルを今年5月8日に更新しました。その概要をご紹介します。

対象とした微生物・食品の組合せ

カンピロバクター属菌の性状の特徴は、このコラム#25(文責森田邦雄前理事長)で説明いたしましたように、5-10%酸素存在下でのみ増殖可能な微好気性菌です。家畜の腸管内の常在菌で、カンピロバクター・ジェジュニは鶏、牛に多く、カンピロバクター・コリは豚に多く分布しています。この菌は人に食中毒を引き起こしますが、家畜にはほとんど影響を及ぼしません。また、カンピロバクターは一般的に空気、乾燥、熱に極めて弱く、速やかに死滅するため、通常の加熱調理で十分な菌数の低減が可能です。対象食品は、国内外の農場で生産され、食鳥処理場で処理後、流通・販売を通じ、家庭・飲食店等で消費される鶏肉等とされました。

対象病原体による健康危害解析

疾病の特徴は、カンピロバクターで汚染された食品を喫食後1~7日(平均3日)で下痢、腹痛、発熱、頭痛、全身倦怠感等の症状が認められ、ときにおう吐や血便等もみられます。患者の多くは自然治癒し、予後も良好な場合が多いですが、まれに、ギラン・バレー症候群(GBS)等を起こすことがあります。発症菌数は、102オーダー以下の低い菌数でも発症が認められるものと考えられています。日本では、カンピロバクター食中毒が食中毒統計に計上されることとなった1983年以降、食中毒統計上の死亡事例は認められていません。原因食品は鶏肉由来の割合が最も高かったと報告されました。

食品の生産、製造、流通、消費における要因

生産段階での汚染の要因として、農場内の衛生害虫、鶏舎の洗浄・消毒、飲用水の消毒等が挙げられました。食鳥処理段階での汚染の要因として、搬入時、懸鳥~脱羽工程、解体法、とたいの冷却における要因が、食肉処理施設(加工)、流通・販売での汚染要因では、交差汚染が要因として挙げられました。

対象微生物・食品に対するリスク管理の状況

○生産段階での対策
a.カンピロバクターの環境への汚染を減らすため、ヒトや昆虫等による、病原体の外部からの侵入を防ぎ蔓延を防止するための管理手法を強化する。
b.鶏のカンピロバクターへの抵抗性の増強(抗菌作用を持つペプチドの投与、ワクチン接種、競合細菌の投与、バクテリオファージ処置、抗菌薬の投与等)。
c.鶏の腸管内のカンピロバクター減少又は除去(抗菌作用を利用するための中鎖脂肪酸の投与等)、の3つが挙げられました。
○食鳥処理及び食肉処理(加工)段階での対策としては、a.区分処理、b.とたいの消毒・殺菌の2つが挙げられました。食鳥処理工程を経るごとに、とたいのカンピロバクター菌数は減少しますが、内臓摘出工程では、カンピロバクターの交差汚染レベルが増加することが指摘されています。
○流通・販売段階での対策としては、冷凍処理が挙げられました。これは、-20℃で14日間冷凍後にカンピロバクター・ジェジュニが0.99‒2.24log10CFU/g減少した報告、-22℃で冷凍1日後にカンピロバクター属菌が約1log10/g減少した、-25℃で冷凍1日以上経過後にカンピロバクター属菌数が約1~3log10/g程度減少したとの報告に基づいたものです。

問題点の抽出

(1)「定量的な汚染実態の把握が不十分」
カンピロバクター属菌が微好気性菌であり、その特性上コントロールするのが難しいこと、保菌している鶏自体は発症することなく、宿主との共生関係を保っているため、鶏の生産性にはほとんど影響を及ぼさないこと、定量的な検査法が統一されていないことなどによるものです。
(2)「カンピロバクター食中毒が減らない」
加熱用として流通・販売されるべき鶏肉の生食又は加熱不十分な状態で喫食されていることにあります。
(3)「効果的に鶏肉の菌数を下げることが困難である」
前述のように、生産段階で鶏は感染しても症状を示さないため区別できないこと、食鳥処理において汚染鶏、鶏肉により容易に交差汚染が起こること、国産鶏肉は、冷凍よりも冷蔵流通が主体であることによるものです。

今後の課題

(1)「モニタリング計画の策定及び実施」として、迅速、簡便な検査方法の開発を進めること、精度管理された検査法で統一的・画一的にモニタリングを実施すること。
(2)「効果的なリスク管理措置の導入及び実施」として、農場における効果的な衛生対策を実施し、検証すること、食鳥処理場においてHACCPを導入・実施し、検証することなど。
最後に、本リスクプロファイルでは、食品安全委員会は、カンピロバクター食中毒について、組織的・計画的に定量的かつ継続的に日本の汚染実態及びヒトの被害実態を把握したうえで、リスクを広く伝えることにより、効果的な措置や取組が実行されるよう、蓄積されるデータを活用し、リスク評価を実施すると結ばれています。

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部微生物部 中島誠人