食肉科研コラム#21では、熟成JAS規格の“誕生“を振り返りました。
今回は、熟成JAS規格で規定している塩せき期間、注入率についてお話したいと思います。
熟成期間7、5、3(シチゴサン)の根拠は?
1つは、古典的な作り方の条件で熟成風味が醸成される期間の文献(1)を参考にし ています。加えて、新村 裕氏(元食肉科研理事長、日本食肉加工協会検査所長)が 1981年に行った実験(2)でもピックルインジェクターを使用した注入法(ピックル注入15%)による試験では、塩せき特有のフレーバーを感じたパネル数は、4日の塩せきで2人、7日で10人と違いがあり、塩せきフレーバーの感知は、供試肉によって風味発現に要する期間にはかなりの幅のあることが認められています。
実際の加工では品質の差異をできるだけ少なくするために、風味の発現が遅い試料に基準を置いた塩せき期間の設定が必要だろうと結論付け、熟成ハム類のJAS規格では塩せき期間は7日間以上とされました。
また、ロース肉より厚みのない脇腹肉を原料とするベーコンではより短い時間で、さらに小さな肉片で塩せきするソーセージではさらに短期間のうちに熟成風味が得られる、ということで、熟成ベーコン類は5日間以上、熟成ソーセージ類は3日間以上の熟成期間が規定されています。
注入率の考え方
食肉の塩漬方法として、ハム、ベーコンでは乾塩漬法、湿塩漬法及びピックル注入法がごく一般的に用いられています。湿塩漬法は塩漬液が原料肉に自然に浸透するのを待つ方法で、この方法では原料肉自身が塩漬液を吸収して重量が増加することが知られており、実験的な確認において、豚ロース肉の場合概ね15%程度増量するものの、最終製品の重量増加にはつながるものではありません。ピックル注入法は原料肉に塩
漬液を注入する方法で、このメリットとして添加物の使用量をコントロールできること、塩漬液の注入を行わないものに比べて塩漬期間が約1/3~1/2に短縮できること、肉の腐敗を防げること等が挙げられます。
しかし、注入の程度によっては増量になりかねないので、それを避けるため、熟成ハム類の規格では自然に吸収される量を注入の限度と考えることが妥当であるとして、「原料肉重量の15%以下」と規定されています。注入量を規定することによって、湿塩漬法と注入法の差異は、塩漬液が肉の内部に浸透する速度の違いだけということになります。熟成ベーコン類では、ベーコンの原料となる脇腹肉の赤肉部の割合がハムの原料となるロース肉やもも肉に比べてかなり少ないので、10%を限度とすることで塩漬の目的は十分達成されます。
熟成JAS規格に使用できる原材料
熟成JAS規格は「熟成風味」に特徴があるため、JAS特級や上級の使用原材料と違いがあります。特級規格では味にバリエーションを持たせるため、各種エキス類、しょうゆやワインなどの調味料を使用できますが、熟成ハム類、熟成ベーコン類ではそれらを使用できず、熟成ソーセージ類は「粉乳、牛乳、バター、チーズ、果汁、全卵及び卵黄」に限り使用することができます。これは、元々ソーセージは原料肉そのものの風味に加えて、香辛料や調味料を加え工夫を凝らして独特の風味を作り出す製品であり、その工夫の中に乳製品を使用したり、果汁を使用したりするものがあるためで、熟成ソーセージ類にこれらの原材料を用いるとしても、熟成風味を損わないようにしようとすれば、自ずと使用量が制限されると考えています。
*1:食肉・肉製品ハンドブック(朝倉書店)234-249,1963
食肉加工の実際(食品資材研究会)116,1982
肉製品(光琳書院)42-79,1963 ほか
*2:新村ら,日本食品工業学会誌,28(10),554-561,1981)


文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
専務理事 猪口由美



