食肉科研では、業界が抱える課題を解決するため、食肉・食肉製品に特化した研究課題に取り組んでいます。今回はその研究結果の一部を紹介します。
食肉の熟成とヒポキサンチン
当研究所では平成26年より塩漬肉特有の風味の発現機構の解明に取り組んできました。塩漬熟成に伴う水溶性画分中の含窒素成分の変化に着目し、特有の味の増強に関与する因子として、核酸関連物質の一つである『ヒポキサンチン』が必須成分であることを明らかにしてきました。
ヒポキサンチンとは?

苦味とコク味
一般的に有害な物質の多くが苦味を有することから、苦味は本能的に避けられる不快な味である一方、帆立貝のコク味は苦味を呈するアミノ酸であるアルギニンにより増強するなど、食品によっては食品自体のコク味の増強に寄与し、嗜好性を高めるとの報告があります。それゆえ、Hxの苦味が塩漬熟成による旨味及びコク味の増強に寄与しているのではないかと考え、Hxをはじめとする苦味物質を用いて塩漬肉特有の味の増強に対する苦味の影響を官能試験(スープ法)により明らかにすることにしました。
試験方法及び試験結果
1)試料調製:と畜後7日経過したチルド豚ロース(LWD種)から、胸最長筋を切出し細切後真空パックして沸騰水中で20分間加熱、冷却後生じたドリップを回収する。これを遠心分離して得た上清(水溶性画分)に食塩び亜硝酸ナトリウムを加え、70℃20分間加熱後冷却したものを基準スープとした。一方、Hx濃度が0.7(閾値濃度), 3.5, 7.0μmol/mlになるように添加したスープ、カフェイン濃度が1.03μmol/mlになるよう添加したスープ及び硫酸キニーネ濃度が0.0051μmol/mlになるよう添加したスープを調製し、それぞれ基準スープと同様に加熱、冷却処理したものを試験用スープとした。
2)官能評価方法:基準スープの各味の強さを「0」点とした時の試験用スープの基本五味及びコク味の強さを10段階(-5点~+5点)で評価した。パネルは当研究所の熟練した官能検査員7名とし、ノーズクリップを用いて鼻腔を閉じ香りの影響を排除して試験を実施した。
3)試験結果:豚ロースから調製したスープに苦味物質を添加すると、添加する苦味物質の種類に関係なく、一定程度苦味が加わることでスープの「旨味」及び「コク味」が増強される結果であった。また、「苦味」は一定のレベル以上の量が存在すると、「旨味」及び「コク味」の増強効果が弱まる結果となった。(図1、図2参照)
以上のことから、塩漬熟成に伴う特有の味の増強には、Hxの呈する「苦味」が一定程度不可欠であることが明らかとなった。スープではなく食肉そのものに広げてHxの関与を探るための牛肉使った予備試験では、Hx含量の多い牛肉の官能的嗜好性が高い結果となり、Hxの関与が大きいことが示唆されました。
今後の課題
Hxは食肉中の呈味成分の中でも苦味閾値が低い物質であることから、塩漬熟成及びと畜後の熟成に伴う味の変化における“カギ”となる物質であると考えられます。Hxの苦味がと畜後の熟成に伴う味の改善に関与するかを解明できれば、Hxを食肉熟成適期の指標として利用できるのではないかと期待しています。
当研究所では、訓練された官能検査員による官能評価試験を中心とした『食肉のおいしさ評価』の実績があります。お客様のご要望に応じた官能評価項目、評価方法などをご提案できますのでぜひご相談ください。
*試験結果詳細
①試験成績書No.47 21-29(一社 食肉科学技術研究所)
②平成27年度食肉に関する助成研究調査成果報告書VoL.34 41-48(伊藤記念財団)



文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部理化学部 吉田由香



