黄色ブドウ球菌について
じめじめした梅雨の時期が近づいてきました。沖縄では5月4日に梅雨入りしたとか。高温多湿なこの季節、皆さまが最も心配されるのが食中毒ではないかと思います。そこで、今回は身近に潜む微生物のうち食中毒菌のひとつである『黄色ブドウ球菌』をとりあげ、菌の特徴、令和7年度厚生労働省食中毒統計から発生数、発生状況、予防方法を整理してお知らせします。
黄色ブドウ球菌は、ヒトを取り巻く環境中に広く分布し、健常人の鼻腔、咽頭、腸管等に生息しており、その保菌率は約40%とされています。また、手指等の傷口の化膿創には本菌が多量に存在しているため、食品取扱者を介した汚染が多くなっています。さらに、家畜を含むほ乳類、鳥類にも広く分布しており、牛乳房炎の起因菌の一つでもあることから、生乳や食肉を汚染する機会も極めて高いことが知られています。黄色ブドウ球菌食中毒の原因食材として食肉製品が原因となる事例は日本ではほとんどないものの、食品衛生法では非加熱食肉製品、特定加熱食肉製品、加熱食肉製品(加熱後包装)の成分規格で「検体1gにつき1,000個以下」と定められており、注意が必要な細菌です。
この菌の特徴は、増殖する際に「エンテロトキシン」という毒素を作ることです。菌自体は十分に加熱すれば死滅しますが、毒素は非常に熱に強く、100℃、20分間の加熱でも完全に壊れません。また、この菌は乾燥や塩分に強く、食塩濃度16~18%でも増殖します。
黄色ブドウ球菌による食中毒事例について
厚生労働省食中毒統計によると、令和7年度の黄色ブドウ球菌による食中毒の事件数は15件、患者数は305人、死亡者はいませんでした。原因食品はおにぎり、弁当など作り置きするものが多く、飲食店、仕出屋、旅館などの施設で発生しています。過去10年間では、年間15~36件、患者数は250~700人で推移しています。
本菌による食中毒は、菌の増殖時に産生した食品中のエンテロトキシンによって引き起こされます。発症までの時間は0.5~6時間(平均3時間)と短く、吐き気、嘔吐、腹痛(下痢)などの症状がみられます。通常、これらの症状は24時間以内に改善するため、大きなニュースとなることは稀ですが、2000年6~7月には加工乳を原因食品とする最大規模の黄色ブドウ球菌による食中毒事件が発生し、その年の患者数は14,722人となりました。
黄色ブドウ球菌による食中毒の予防について
前述のとおり、黄色ブドウ球菌自体の耐熱性は高くないものの、産生されるエンテロトキシンは耐熱性が高く、通常の加熱調理では毒素は壊れないため、食品中に一度毒素が産生してしまうと加熱しても安全性を担保できないことになります。
黄色ブドウ球菌による食中毒を予防するには、食品に菌を付けないことと、食品中でエンテロトキシンを産生させないようにすることが重要で、特に加熱処理後の手作業に関わる食品は要注意です。十分な手洗い、調理器具の消毒の徹底、食品に触れる際には使い捨ての手袋を使用すること、特に手に切り傷や化膿した部位がある場合は直接食品に触れないようにすることが、予防のポイントとなります。
また、十分に加熱調理し、食品中でエンテロトキシンを産生させないよう作り置きはできるだけ避け、低温管理できない食品は調理後早く食べるようにしましょう。黄色ブドウ球菌食中毒は多くの食中毒と同様、夏場に発生しやすくなる傾向にあります。これから気温が高くなる時期になりますので、特に注意が必要です。

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部微生物部 岡本 武



