スペインのアフリカ豚熱発生について

昨年末にスペインで野生イノシシから家畜伝染病であるアフリカ豚熱(以下 ASF)の発生が確認され、スペインからの豚肉・豚肉加工品の輸入が停止されました(ただし、2025 年 10 月 29 日以前にと畜・加工・梱包まで終了し、かつ輸出されるまでの間、防疫上安全かつ衛生的に保管及び輸送されたものであることをスペイン政府が証明しているものは対象としない)。ハムやベーコンなどの原料として活用されているスペイン産フローズンポークの輸入が停止されたことで、食肉加工品原料の安定供給に懸念が生じる事態となっています。また、輸入生ハムについては 2022 年初頭からイタリア産が同じく ASF 発生により現在も輸入停止が続いているため、国内ではスペイン産が輸入品の7割弱を占めており、その需給や価格への影響が懸念されています。そこで、今回のコラムでは、ASF の発生状況及び豚熱(以下 CSF)との違いについて紹介します。

ASFとは

ASF は、ASF ウイルスが豚やイノシシに感染することによる発熱や全身の出血性病変を特徴とする致死率の高い伝染病です。ウイルスに汚染された豚肉や豚肉加工品を豚に給餌することや、豚同士の直接的または間接的な接触により感染が拡大します。野生イノシシの場合、水浴びや泥浴びをする水場が感染拡大に好都合な環境となります。

ASF には有効なワクチンや治療法がなく、発生した場合には畜産業界への影響が甚大であることから、我が国の家畜伝染病予防法において「家畜伝染病」に指定され、患畜・疑似患畜の速やかな届出と殺処分が義務付けられています。

日本は本病の清浄国であり、これまで発生は確認されていませんが、世界各地で発生が確認されているため、今後も海外からの侵入に対する警戒を怠ることなく、発生予防に努めることが重要であるとされています。

なお、アフリカ豚熱は豚、イノシシの病気であり、人に感染することはありません。

ASFの発生状況

2025 年11 月末、スペインのバルセロナ周辺で野生イノシシ計9 件、26 頭のASF の感染が報告されました。スペインでは約30 年ぶりの感染確認となっていますが、2025 年12 月2 日時点で周辺の養豚場の豚への感染は確認されていません。

ASF は常在地であるアフリカ諸国で問題とされてきましたが、近年の物流網の拡大によって、これまで流行の見られなかった地域へ拡大しつつあります。過去にはヨーロッパ、南アメリカ、カリブ海諸国において発生が記録されていますが、2000 年初頭までにはアフリカとイタリアの一部を除く地域から撲滅されました。しかし、2007 年に突如としてコーカサス地方ならびにロシアに侵入し、その後ウクライナ(2012 年)、ベラルーシ(2013 年)、エストニア(2014 年)、ラトビア(2014 年)、リトアニア(2014 年)、ポーランド(2014 年)、モルドバ(2016 年)、チェコ(2017 年)、ルーマニア(2017 年)と発生が続き、ベルギー(2018 年)やドイツ(2020 年)など西ヨーロッパへと拡大しています。コーカサス地方への侵入については国際航路の船舶内で出された食品の残渣(厨芥)が原因として疑われており、その後の感染拡大の要因として野生のイノシシへの浸潤や汚染した豚肉由来製品の豚への給餌が挙げられています。2017 年にはロシアのモンゴル国境付近で発生を認め、次いで2018年には中国(遼寧省)で初発例が報告され、翌2019 年(4 月)には中国本土全省で発生するに至りました。韓国でも2019 年9 月の野生イノシシでの確認から発生が続いており、近年は豚・イノシシともに発生が確認されています。また、東アジアで日本以外唯一の未発生国であった台湾でも2025 年10 月に豚からの発生が確認されました。

ASFとCSFの違い

ASF と CSF は、どちらも豚やイノシシに感染する致死率の高い伝染病ですが、原因となるウイルスが異なる別の病気です。ASF の病原体であるアスファウイルスは、2018 年 9 月に日本で再発生した CSF のフラビウイルスとは全く異なります。アスファウイルスは二本鎖 DNA ですが、フラビウイルスは一本鎖 RNA になります。両者とも接触などの直接伝播、泥浴びなどの間接伝播で感染しますが、ベクター(媒介者)であるダニを介して感染するのは ASF だけです。また、CSF は豚の頸部(首の筋肉)へワクチンを筋肉内接種する。野生イノシシには経口ワクチン入りの餌を散布する等、免疫を付与する対策が実施されていますが、ASF にはワクチンがないため、有効な治療法は存在しません。

疾病名ASF(アフリカ豚熱)CSF(豚熱)
英語名African Swine FeverClassical Swine Fever
旧名称アフリカ豚コレラ豚コレラ
病原体ASFvirus
アスファウイルス
(二本鎖 DNA)
CSFvirus
フラビウイルス
(一本鎖 RNA)
感受性動物・宿主豚・イノシシ
(人に感染しない)
豚・イノシシ
(人に感染しない)
伝搬直接伝播・間接伝播・ダニ直接伝播・間接伝播
国内発生
(2025 年 12 月現在)
なしあり
ワクチンなしあり

(ASF 対策に関する緊急提言(日本学術会議)参照)

地域主義の適用

他国の状況をみると韓国や英国などの域外国の一部では、ASF の疾病発生国であっても未発生地域に限り、輸入を認める「地域主義(ゾーニング)」が適用され、引き続き輸入を継続しています。また、中国は 11 月中旬にスペイン国王夫妻が同国を公式訪問した際に、ASF に関する「地域主義(ゾーニング)」の相互認証協定を締結・発効していたことから、引き続き発生地域以外の豚肉については中国への輸出が可能となっています。日本の豚肉輸入量を鑑みるとスペインは全体の約 20%を占めており、今回の ASF によるスペイン産冷凍豚肉の輸入停止は、ハム・ソーセージなど食肉加工品業界にとって安定的な原料調達を脅かす大きな問題です。日本においても「地域主義(ゾーニング)」の適用など早急な対策が望まれる中で、昨年 12 月に一般社団法人日本食肉加工協会及び日本ハム・ソーセージ工業協同組合は主要な豚肉輸出国との早急なゾーニング協定締結を求めた要請書を農林水産省に提出したところです。

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
品質保証部 柴田清弘