食肉科研では、牛、豚、鶏など食肉や食肉製品について異臭のご相談をいただくことがあります。その多くは消費者から企業に寄せられたクレームで「お肉からイヤな臭いがする」「脂肪部分が臭い」「チーズの様な臭いがする」「薬品のような臭いがする」など様々です。

実際に検査すると異常がないこともありますが、先のクレームの中で「イヤな臭い」の正体が糞便臭を発する「スカトール」という物質であったり、「脂肪が臭い」の正体が脂肪の酸化により生成する酸化臭(アルデヒド臭)といわれる「ヘキサナール」であったり、「チーズ様の臭い」が保存中の発酵や変敗により脂肪から遊離した「酪酸」という短鎖脂肪酸であったり、薬品のような臭いが消毒として使用される「クレゾール」であったり、食肉における異臭は、生体飼育環境によるもの、食肉の劣化(変敗)によるもの、発酵など微生物の影響によるもの、食肉処理工程におけるものなど種々の要因から多種類の異臭成分が原因となり発生します。

そこで今回のコラムでは、食肉科研が異臭検査をする際の検査手法やアプローチの方法について簡単にご紹介します。

はじめの一手は官能検査から

異臭について最も迅速な方法が官能検査(異臭があるか臭いを嗅ぐ)による手法です。当研究所では、オフフレーバー(異臭)標準品を入手しトレーニングを積んだ官能検査員が異臭についての官能検査を実施しています。3名の官能検査員が異常品の臭いを嗅ぎ、正常品と比較して該当する異臭の有無を判定します。官能検査は、ヒトが感じることのできる感度で迅速に異臭を判別できるメリットがある一方で、異臭成分を数値化することが難しく、複数の臭いが混じりあっている場合に臭い成分を分離することが難しいなどのデメリットがあります。

官能検査に加えて異臭成分の特定とその強度や量が知りたいと希望されるご依頼には、GC/MS/MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)を用いた機器分析による異臭検査をお勧めしています。

機器分析による異臭検査

GC/MS/MSによる異臭検査は、食肉から発生する異臭成分を測定し異臭物質を特定することができます。そのため、前述の官能検査のデメリットを補うことができますが、我々も機器分析による測定方法を開発してわかったのですが、揮発しにくい性質などを持つ異臭物質は機器分析よりもヒトの感覚の方が優れていることがあります。そのため、当研究所では、はじめにヒトによる官能検査を行った後、異臭が感じられた箇所を中心に数点サンプリングを行い、機器分析に供しています。

また、元々の食肉の特性として正常品であっても異臭成分を微量に有することがあるため、当研究所では、基本的には正常品をご準備いただき、異常品と正常品について比較解析することにしています。

検査手法はSPME法(Solid Phase Micro Extraction)を採用しています。詳細な説明は省略しますが、揮発成分をファイバーに吸着させ、捕集・濃縮して、GC/MS/MSに送り込む方法です。得られた結果(クロマトグラム)を、既存の異臭成分ライブラリー(150成分)をもとに正常品と比較解析することで、異常品の異臭成分の同定および定量することができます。

機器分析による酸化に関わる物質検出事例

下記に示す表1は、弊所で豚バラ肉を10℃で保存後、官能検査において脂肪部分から異臭を感じた試料(異常品)を採取し、機器分析による異臭検査に供した結果です。正常品として、購入直後の同一豚バラ肉を分析しました。

異臭を感じた試料からは、脂肪が酸化すると生成するアルデヒドやケトンが検出されました。酸化臭として代表的な物質であるヘキサナールは正常品では検出されませんでしたが、異常品では24.5pg/mg、オクタナールは2.01pg/mg検出されました。このように分析機器を使用した異臭検査は、臭い成分の種類や量がわかりますので、有用な検査の1つと考えられます。

異臭クレームについては、当研究所の経験と実績から、その解明にご協力できることがあると思います。ご相談ください。

炭素数異常品*正常品*
アルデヒドヘキサナールC624.5
オクタナールC82.01
2,4-ノナジエナールC90.09
2-デセナールC100.17
n-デカナールC100.07
ケトン2-ヘプタノンC50.16
2-オクタノンC80.08

*単位 pg/mg
– 検出せず

#110「食肉の異臭成分と検査手法について」

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部理化学部 吉田由香