食肉や食肉製品の品質検査において、pHをモニタリングされているところは多いと思います。pHを測定すると、酸性・中性・アルカリ性を数値で知ることができます。そもそも、pHとは、水素イオン濃度を対数スケールで示したものであり、水素イオン指数(活量)とも呼ばれます。読み方は、”ピーエイチ”は英語読み、”ペーハー”はドイツ語読みですので、化学の教科書等では前者を使うのが一般的です。pHの数値が低いほど、水素イオン濃度が高い状態であることを表します。対数スケールですので、pHが1違うと、水素イオン濃度が10倍違うことになります。今回は、pHと食肉・食肉製品の関係について、ご紹介いたします。

pHの変化がもたらすもの

食肉のpHは、一般的に5.5-6.0の範囲の弱酸性にあります。食肉になる前の家畜の筋肉は、pH7の中性です。家畜がと畜されると、筋肉(食肉)には乳酸が生成し、乳酸に由来する水素イオンの増加によって、pHは7から5.5付近まで低下します。このようなpHの変化によって最も影響を受ける食肉の成分が、タンパク質です。

タンパク質を構成するアミノ酸は、プラスやマイナスの電荷(電気)を帯びており、そのプラスとマイナスの電荷によって、アミノ酸(タンパク質)同士が近づいたり、離れたりする性質があります。単純にプラスとマイナスが隣り合えば近づきますし、プラスとプラスあるいはマイナスとマイナスが隣り合えば、両者は離れます。食肉のタンパク質は、そのアミノ酸の構成からpH5付近でプラスとマイナスの数が同じになって、いわゆるプラマイゼロの状態になります。つまり、pH5付近の食肉は、プラスとマイナスが隣り合ってタンパク質同士が最も近づいた状態にあるということになります。このタンパク質の変化は、食肉の品質に反映されることが知られています。

pHと保水性、色調の関係

1つは、「保水性」です。保水性は、水を保持する性質です。食肉中の水は、タンパク質とタンパク質の間のスペースに存在します。pHが5付近にあると、タンパク質同士は最も近づいた状態にあることから、水が存在できるスペースが狭くなり、食肉の保水性も低くなります。しかし、このことを知っていれば、保水性を高める原理は、そう難しくはありません。pHを5付近から遠ざけること、すなわち、pH5よりもっと酸性側あるいは中性側に変化させると食肉の保水性は向上します。ご家庭やレストランで、酢(酸性)やワイン(アルカリ性)を使って、食肉を調理する場合がありますが、これらは食肉の保水性を高めるのに有効な方法と言えます。食肉製品の製造においても同様に応用することが可能です。

次に影響を受ける品質は、食肉の「色調」です。これもpHによってタンパク質が近づいたり、離れたりして、タンパク質間のスペースが変化するところまでは、保水性と同じ説明です。そして、この変化は、食肉の光の透過度を変化させます。食肉に光(日光など)が当たると、多くは跳ね返り、一部は吸収あるいは透過します。我々は、この跳ね返った光を見て、食肉の色や形等を認識しています。タンパク質が近づいた状態(pH5付近)にある食肉に光が当たると、光が透過するスペースが少ないことから、物理的に跳ね返る光が増えます(透過する光は減ります)。そうすると、視覚に入ってくる光(跳ね返った光)の量が増えるので、その食肉は明るく見えます。つまり、pH5付近の食肉は、光の反射量が多いので「明るく」見え、pHが中性側にシフトしていくと光の反射量が少なくなるので暗く見えます。この原理を利用したのが、「畜試式豚・牛標準肉色模型(ポーク・ビーフカラースタンダード)」です。これらは、食肉の格付において使用されますが、模型と食肉を比較することによって、異常肉であるPSE肉やDFD肉を簡便に識別することができます。PSE肉は、ふけ肉とも呼ばれ、pHが低く、保水性が著しく悪い食肉で、加工に不適です。他方、DFD肉は、pHが高いため、保水性も高くなりますが、微生物が増殖しやすい欠点があります。PSE肉やDFD肉の発生の詳細については、ここでは割愛しますが、これらの品質は食肉のpHの違いによるものです。pHの違いが、食肉の色調の違いをもたらすことは、先述のとおりです。つまり、食肉の色調の違いから、食肉のpHを予測し、最終的に枝肉や原料肉等の品質を予測することが、食肉の格付では行われています。

今回は、pHと食肉を構成するタンパク質の関係をご紹介いたしました。食品に対するpHの影響としては、pHを下げて微生物を制御することが最も一般的かもしれません。pHの測定は、比較的シンプルですが、得られる情報は多く、食肉・食肉製品の品質を知る有効な手段の1つです。

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
理化学部 理化学試験検査課長 中村幸信