このコラムでは初めてお目にかかります。微生物試験検査課兼JAS検査課の岡本武です。微生物やJASについてお役に立つ情報を提供できればと思います。よろしくお願い致します。

ご記憶にある方も多いと存じますが、昨年末に「糸引きマフィン」と呼ばれたニュースがマスコミをにぎわせました。なぜこのようなことが起こったのか、原因を考えてみたいと思います。それを踏まえ、食中毒を起こさないために気を付けるべき点についてもお伝えしたいと思います。

今回の事例のマフィンですが、東京ビッグサイトで開催されたイベント「デザインフェスタ」に出店していた目黒区内の施設が製造・販売した一部マフィンについて、購入者から「納豆のような臭いと糸を引いているのを確認した」などの申し出があったほか、喫食後に腹痛等の症状を呈している方が複数名確認されました。このことにより、厚生労働省は、販売されたマフィン約3,000個について、健康への被害が最も高い「CLASSI」のリコール対象としました。

しかし、保健所の検査で食中毒菌が検出されず、体調不良がマフィンによるものと断定できなかったため、行政処分は見送られました。

細菌の増殖の要因は?

食中毒菌は検出されませんでしたが、糸を引いている、納豆のような臭いがするということから、バチルス属の増殖が疑われます。これらの中には、「芽胞」を作って耐熱性を持ち、オーブンで焼かれても生き残るタイプがいて、温度が下がると発芽し生温かな状態が続くと一気に増殖します。加熱で死滅させることが難しいので、食中毒予防の3原則のうちの、「増やさない」ためにはどうすればよいかを考える必要があります。細菌の増殖の要因には、温度と時間、水分活性、pH、酸素の有無等があります。

報道によれば、店舗が会場で配ったチラシには砂糖の量が市販の焼き菓子の「半分以下」。「防腐剤や添加物も使っていない」とうたっていたそうです。

塩分や糖分は「水分活性」を低下させる作用があります。水分活性が低いほど自由水が少なく(=微生物が増殖しにくい)、高いほど自由水が多い(=微生物が増殖しやすい)のですが、仮に砂糖の使用量が少なかったとしたら、水分活性は想定したよりも下がらず、常温保存したのであれば保存中に増殖した可能性が考えられます。また、製造から消費までの期間が短かければ、問題は起こらなかったのかもしれません。

食中毒を起こさないために

近年消費者の健康志向の高まりにより、減塩や無添加を強調する商品が増加し、食塩や添加物を減らすことで消費者に健康面でアピールできるメリットはありますが、その分細菌の増殖のリスクは高まることは皆さまご承知のことと思います。

製品の配合を大幅に変更する、保存温度を変更する等、そのことによって細菌の増殖が起こり得る場合は、保存試験によって科学的根拠を把握しておくことの重要性を、この案件では再確認させられました。

今回の事例では幸いにも見た目や臭いで異常に気付いたために、死者や重篤患者は出ていませんが、ウェルシュ菌による食中毒のように、見た目もにおいも変わらないので気付かずに食して起きる食中毒も多く発生しています。

これから夏場に向けて、細菌による食中毒が多く発生する時期を迎えます。食中毒の三原則、「つけない、増やさない、排除する」を徹底していくこと、そして、今回の案件では製造者が食品衛生についての理解が十分だったかどうかはわかりませんが、事故を起こさないために、微生物のことを理解することは大事なことだと思います。

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部微生物部 微生物試験検査課 岡本武