食肉科研では、牛、豚、鶏など様々な食肉について肉質評価のご依頼をいただいています。その中で、この1年は特に『脂肪の融点』検査のご依頼が増加したように感じています。食肉の筋肉中(赤肉中)に含まれる遊離アミノ酸など水溶性の呈味(うま味など)成分だけでなく、『脂肪の質』と関連する「脂肪融点」や主に脂肪を構成する「脂肪酸の組成や量」に着目されるお客さまが増えているのでしょう。そこで今回のコラムでは、脂肪融点と脂肪酸との関係についてご紹介します。
脂肪融点とは?
『脂肪の融点』とは脂肪が溶け始める温度のことです。調理によって加熱して溶けた脂肪は食肉になめらかな感触を与えるため、食べた時においしさとコクを感じさせる要素となります。しかしながら、融点が低い=口溶けが良い=口内に脂肪が残らない(ロウを食べたような食感にならない)=質の良い脂肪、とは一概に言えないようです。ヒトの体温は、通常36°から37°程度ですから、この温度よりやや低い温度で溶け始める脂肪であれば、食べた時に口内に適度に残るコクやなめらかさを感じることができるでしょう。逆に脂肪融点が低すぎるとスッキリしすぎてしまい、口内に脂肪からくるなめらかさやコクをあまり感じることができないことも考えられます。
脂肪融点と脂肪酸の関係
まずは、脂肪の特性について整理してみましょう。(表1参照)
脂肪の特性は、脂肪分子の大部分をしめる脂肪酸の組成(脂肪がどのような種類の脂肪酸で構成されているか)に強く影響されます。脂肪酸を大別すると「飽和脂肪酸」「一価不飽和脂肪酸」「多価不飽和脂肪酸」に分けられます。少し専門的になってしまいますが、飽和脂肪酸とは脂肪酸の中の炭素間に二重結合がないもので、二重結合1つあれば「一価不飽和脂肪酸」、2つ以上あれば「多価不飽和脂肪酸」といいます。
日本食品成分表2020年度版(八訂)では、実に47種類もの多くの脂肪酸が食品ごとに掲載されていますが、食肉における主要な脂肪酸を整理すると、表1に示す7種類(飽和脂肪酸3種、一価不飽和脂肪酸2種、多価不飽和脂肪酸2種)が脂肪酸全体の95.2%~97.4%を占めます。中でもオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸の3種がメインです。
これら脂肪酸の量的比率によって、脂の口どけ=なめらかさ(悪い⇔良い)、脂のコク(あっさり⇔濃い)、脂のべたつき(弱い⇔強い)、匂い(酸化しやすい⇔しにくい)など『脂肪の質』は大きく変化します。
7種の各脂肪酸の融点をみると、飽和脂肪酸>一価不飽和脂肪酸>多価不飽和脂肪酸の順に高いことがわかります。このことは、脂肪を構成する脂肪酸の組成において飽和脂肪酸の割合が高ければ融点が高くなる、不飽和脂肪酸の割合、特に多価不飽和脂肪酸の割合が高ければ融点は低くなることを意味します。
表1 食肉の脂質を構成する主要な脂肪酸と動物脂の融点
| 飽和脂肪酸 | 一価不飽和脂肪酸 | 多価不飽和脂肪酸 | 脂肪酸合計(%) | 動物脂の融点(℃) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 脂肪酸 | ミリスチン酸 14:0 | パルミチン酸 16:0 | ステアリン酸 18:0 | パルミトレイン酸 16:1 | オレイン酸 18:1 | リノール酸 18:2 n-6 | αリノレン酸 18:3 n-3 | ||
| 融点(℃) | 53.9 | 63.1 | 69.6 | -0.5~0.5 | 12~16 | -5.2~-5.0 | -11.3 | ||
| 和牛肉サーロイン 生(11017) | 2.8 | 25.5 | 10.1 | 4.8 | 50.5 | 2.4 | 0.1 | 96.2 | 20~30 |
| 乳用肥育牛肉サーロイン 生(11045) | 3.2 | 27.5 | 12.6 | 3.9 | 45.0 | 4.0 | 0.2 | 96.4 | 30~45 |
| 輸入牛肉サーロイン 生(11073) | 2.6 | 27.5 | 13.6 | 3.8 | 45.3 | 1.7 | 0.7 | 95.2 | |
| 豚大型種肉ロース 生(11123) | 1.6 | 25.6 | 16.2 | 1.9 | 40.3 | 10.8 | 0.5 | 96.9 | 33~46 |
| ラムかた肉脂身つき 生(11201) | 3.8 | 24.1 | 21.5 | 1.6 | 40.9 | 2.4 | 0.9 | 95.2 | 44~55 |
| 馬赤肉 生(11109) | 4.7 | 29.4 | 3.7 | 10.6 | 35.5 | 8.7 | 4.4 | 97.0 | 30~43 |
| 若鶏もも皮つき 生(11221) | 0.9 | 25.9 | 6.7 | 6.5 | 44.6 | 12.3 | 0.5 | 97.4 | 30~32 |
*日本食品標準成分表2020年度版(八訂) 脂肪酸成分表編より抜粋
*食品名中の( )内は八訂における食品番号
*参考 「肉の機能と科学」松石昌典 著 朝倉書店
表1からも読み取れるように、脂肪酸の割合は畜種によって異なりますし、牛では品種によっても大きな違いがあります。和牛はオレイン酸が高くステアリン酸が低い、一方、輸入牛では飽和脂肪酸であるステアリン酸が高くオレイン酸等の不飽和脂肪酸が低い。これは輸入牛より和牛の方が融点は低いことと一致します。このように脂肪を構成する脂肪酸組成が動物種で異なることが融点の違いを反映しています。もちろん同一の畜種間でも、脂肪酸の組成の違いによって融点は異なってきますので、生産者や各企業では、他社との差別化を図るため脂肪の質の違いを特徴とした自社ブランドの訴求に力を入れていると感じます。
融点の低い和牛や馬肉は、その特徴を生かし加熱調理以外に寿司や刺身で食する、一方、人の体温より融点の高い羊肉は、ジンギスカンなど高温で食する調理をしており、脂肪融点からするとその喫食方法は合点のいくことだと感じます。
他にも脂肪融点や脂肪酸組成は、脂肪の硬さや食味にも影響を与えます。このことは別の機会にお話しできればと思います。

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部理化学部 吉田由香



