このコラムでは初めてお目にかかります。理化学試験検査課の中村幸信です。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、アスコルビン酸Naは、食品添加物の「酸化防止剤」であることは、よく知られていると思います。ここでは、アスコルビン酸Naの「発色助剤」(「肉色の固定」や「退色防止」)としての役割について、ご紹介いたします。

発色のメカニズム

塩せきの定義は、公正競争規約施行規約に「食肉に食塩、発色剤等を加え、低温で漬け込みを行うこと。」とあり、発色剤を使用することが示されています。発色剤としては、亜硝酸Na・亜硝酸K(亜硝酸塩)、硝酸Na・硝酸K(硝酸塩)が使用されます。発色剤の作用は多岐に渡りますが(KAKENコラム#3をご覧ください)、その1つは、その名のとおり「発色」です。続けて、この発色のメカニズムについて解説します。

発色の主人公は、(a)ミオグロビンと(b)一酸化窒素です。(a)ミオグロビンは、食肉由来の色素タンパク質です。食肉や食肉製品の色調は、ミオグロビンの状態によって決定します。次に、(b)一酸化窒素(構造式:NO)は、発色剤の亜硝酸塩・硝酸塩に由来する無色・無臭の気体(常温)です。塩せきにおいて、発色剤は、亜硝酸(構造式:HNO2)の形をとります。構造式を見てお気付きかもしれませんが、この亜硝酸(HNO2)の変化によって、一酸化窒素(NO)が生成します(HNO2→NO)。この変化は、化学的には「亜硝酸の還元」と呼ばれます。最終的には、食肉由来の色素であるミオグロビンに、発色剤由来の一酸化窒素が結合し、食肉製品はピンク色を呈します。これが発色のメカニズムとなりますが、この説明だけでは「亜硝酸の還元」とは?という疑問が残ると思います。

要するに、発色は、亜硝酸を還元しないことには始まらないということになります。ここで登場するのが酸化防止剤であるアスコルビン酸Naです。

アスコルビン酸Naは、例えば、酸化物に対しては、酸化物から酸素を取り除くように作用します。この酸化物から酸素を取り除くことは、「還元作用」です。塩せきにおける亜硝酸(HNO2)から一酸化窒素(NO)への変化でも、亜硝酸から酸素が除かれていました。つまり、酸化防止剤であるアスコルビン酸Naは「還元作用」を有し、塩せきでは、亜硝酸を一酸化窒素に還元する役割を担っています。アスコルビン酸Naは、発色の主役ではありませんが、主役が発色することを助けています。これが「発色助剤」と呼ばれる由縁です。

食品衛生法では、亜硝酸イオンの残存量に基準値が定められていますが、ここまでお話したアスコルビン酸Naの役割を知れば、さらなる重要性が理解できます。発色剤の使用量は、その多岐の効果を得るために、基準値を超える量を使用するのが一般的です。しかし、最終製品で亜硝酸イオンが基準値を超えないのは、アスコルビン酸Naが亜硝酸を一酸化窒素へと還元しているためです。一酸化窒素は当然亜硝酸に戻ることはありません。この重要性から、米国では、インジェクション処理するベーコン(pumped bacon)の製造に550ppmのアスコルビン酸Na(or エリソルビン酸Na)を使用することが定められています(ベーコンにのみ定められているのは、米国でのベーコンの調理方法によるものです)。また、ある研究では、亜硝酸ナトリウムとアスコルビン酸Naを1:3の割合で塩せきすると、残存する亜硝酸イオンは、アスコルビン酸Naを使用しない条件と比べて、約20%減となることが示されています1)。こうした効果を踏まえれば、塩せき工程では、アスコルビン酸Naを使用することを強く推奨いたします。

ここまでアスコルビン酸Naのあまり知られていない「発色助剤」としての役割をご紹介いたしました。使用基準(対象食品、使用量等)はありませんし、ごく身近な食品添加物ですが、その役割を改めて見返すと、新たな発見等があるかもしれません。

参考文献
1) 新村裕ら、日本食品工業学会誌 28(5), 284-289 (1981)

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
理化学部 理化学試験検査課 中村幸信