乳酸菌は、古来上手に利用されてきた微生物で、例えば、腐りやすい乳を保存性の良い乳製品に加工するための手段に活用したり、発酵食肉製品、醸造製品、漬物などにも乳酸菌が関与しています。近年は、乳酸菌による整腸作用とともに、免疫力の活性化、コレステロール低減、血圧降下作用などプロバイオティクスとしての研究も進んでいます。一方で、その存在が食品の変敗、劣化の原因となる場合があります。

食肉製品製造工程での細菌叢は、原料由来菌により構成されていますが、塩漬工程で、温度、塩分、亜硝酸ナトリウム等の影響を受け、Lactobacillus、Enterococcus、Leuconostoc、Lactococcus、Pediococcusなどの乳酸菌が優勢となります。不適切な品温管理や不十分な施設設備の清掃等により、これらの乳酸菌が原因で変敗等が生じる場合があります。

食肉製品製造時の乳酸菌の制御

〈汚染経路の遮断〉

製品の変敗原因となる乳酸菌の多くは原材料によって工場内へ持ち込まれます。従って原料肉は、なるべく菌数の少ない肉を提供できる業者を選定することはご存じのとおりです。乳酸菌は加熱殺菌により死滅しますが、空気、作業従事者等を介して加熱殺菌後の二次汚染の原因となります。二次汚染を防ぐには、HACCPシステムを効果的に機能させるための前提条件である、一般衛生管理の実践が重要で、作業環境の清浄度区分は明確に区分し、交差汚染のないよう十分に注意すること、清浄作業区域内は陽圧とし、ヘパフィルターなどで除菌した空気を使用することが望ましい対策です。また、作業場内は乾燥させ、低温管理することによって細菌の増殖を抑制することができます。

〈製造現場・機械器具の洗浄〉

食肉製品製造工場は次亜塩素酸ナトリウムやアルコール類などの殺菌剤によって洗浄殺菌されています。これら薬剤を長年にわたり使用することにより耐性菌が出現します。例えば次亜塩素酸ナトリウム等の塩素化合物は100~500ppmの濃度を長年使用することによりLactobacillus属、Enterococcus属、Leuconostoc属などの乳酸菌が薬剤耐性を取得しています。使用する薬剤の組合せや交互使用のような切替えなどの工夫も必要でしょう。また、乳酸菌にとってオゾンや酸素は好ましいものではないと言われています。このため従来の殺菌剤に替えてオゾンを単用あるいは併用して食品工場を殺菌することは有効であると報告1)されています。

〈加熱殺菌〉

加熱食肉製品の加熱条件である63℃で30分間加熱殺菌すれば、大半の細菌は死滅します。しかし、変敗に関与する乳酸菌の中でEnterococcus faeciumやEnterococcus faecalisは耐熱性が高く、63℃30分間の加熱殺菌では十分に殺菌できない場合があります2)。そのため、一般的には中心温度を70~75℃まで加熱し、一定時間保持するような加熱殺菌が行われています。食肉製品製造事業者の中には、乳酸菌の中で最も耐熱性の高かったEnterococcus faeciumを指標として、加熱殺菌条件を作成し、実際の現場で活用している社もあります。3)

〈低温管理〉

乳酸菌がやっかいなのは、低温でも増殖する性質を持っていることです。そのため、制御するには低温管理が重要です。ボロニアソーセージにLactobacillus sakeを接種後、ガス置換包装し、保管した場合、7℃から2℃に低下すると乳酸菌の発育は2倍遅くなり、7℃から0℃に低下すると4倍遅くなると報告4)されています。加熱食肉製品の保存温度は10℃以下ですが、乳酸菌の増殖抑制を考慮すれば、さらに低い温度管理が望まれると言えるでしょう。

このように変敗等の原因となる乳酸菌は極めて制御しにくい細菌です。二次汚染防止が最も効果的な制御方法と言われていますが、二次汚染を完全に防止することは非常に困難です。したがって、ハードル理論に示されるように、制御効果が緩やかであっても、加熱殺菌と複数の汚染防止対策を組合わせて実践していくことが重要です。

(参考文献)
1)内藤茂三:愛知食品工技年報.39(1998)
2)Magnus,C.A.et al.: Further studies on the thermal resistance of Streptococcus faecium and Streptococcus faecalis in pasteurized ham.Canadian Institute of Food Sci.andTechnol.21 209(1988)
3)鮫島 隆:食品のストレス環境と微生物.P60(SCIENCE FORUM)
4)Borch,E.et al.:Bacterial spoilage of meat and cured meat products.Int.J.Food Microbiol.33.103(1996)

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
事業統括部微生物部 中島誠人