令和4(2022)年11月に、日本ハム・ソーセージ工業協同組合のJRA畜産振興事業(国産食肉加工品国際競争力向上・製造基盤強化対策事業)の一環である、海外現地調査として、スペインに5名のメンバー(団長:大和食品工業㈱竹内裕嗣社長)で訪問しました。調査内容は報告書でご覧いただけることになっています。

今回の訪問先として、当初予定されていなかった、カタルーニャ州ジローナにあるIRTA(Institut de Recerca i Tecnología Agroalimentàries)というカタルーニャ州政府農業技術研究所を訪問することができました。

と言いますのも、今回の調査団メンバーに、北海道大学大学院農学研究院・農学院・農学部准教授若松純一先生がおられて、先生の研究室に2022年5月から4か月間、IRTAのRicard Bou Novensà博士が外国人研究員として滞在されていました。そのご縁で、今回短い時間でしたがIRTAの施設を訪問する機会をいただきました。Ricard Bou Novensà博士は、食肉・食肉製品の研究者で、亜鉛プロトポルフィリンIXの形成機構解明や応用技術開発の研究を行っておられます。

今回は、IRTAについて、いただいたパンフレットやホームページなどを中心に、一部紹介させていただきます。

○スペインの地図

ご紹介

IRTAは約600人の従業員を擁し、そのうち220人が研究者です。IRTAは、植物生産、動物生産、食品技術、環境と地球変動、農業食品経済学の5つの知識分野に基づいて集められた21の科学研究プログラムを持っています。そして、短期コースやセミナーによる専門的な製造技術を、実践的なトレーニングセッションとして提供されています。

IRTAの施設見学は、Ricard Bou Novensà博士とともに、Jacint Arnau博士にエスコートしていただきました。Jacint Arnau博士は、スペインの著名な食肉科学の研究者であり、現在はIRTAを退職されているものの、外部の独立評価員としてご活躍されています。

施設には様々な分析機器の他に、食肉加工品の製造室がありました。一部ガラス張りになっていて、作業しているところを隣の教室から見て学ぶことができます。教室から直接見えない部屋にはカメラが設置されていて、リアルタイムで配信できるシステムになっています。これには驚きました。こうしたことは、食肉加工品の品質向上、そして、より競争力を持つための機会として重要なセッションだそうです。

○施設の写真

研究施設内では、温度、湿度、風量を調節した部屋で生ハムの製造試験も行われていました。このような試験は、製造者からの依頼によって行われることもあるとのことでした。

また、研究施設として、食品用高圧処理装置が設置されていました。(後に若松先生にご教授いただきましたが、)生ハムやドライソーセージを超高圧処理することによる病原菌の挙動を研究するために活用されていると思われます。このような研究機械は大変高額ですし、先に述べた製造室はその維持費も多額なものになると思います。若松先生を始めとする我が国の食肉の研究者からすれば、研究体制への国や政府のサポートの手厚さは羨ましいと感じられるのではないでしょうか。

さて、Ricard Bou Novensà博士が所属する食品安全・機能性部門のリーダーであるSara Bover Cid博士にもお目にかかることができました。(写真がないのは痛恨のミスです。)

Sara Bover Cid博士の研究は、加工及び保存技術を通じて食品の安全性と微生物学的品質を向上させることに焦点を当てておられます。特に、微生物学的リスクの評価と管理に応用するための細菌行動の研究とモデリングにおいて、国内及び国際的な研究プロジェクトを主導されていて、100以上の論文等を発表されています。国際的な活動としては、食品微生物学及び衛生の国際委員会(ICFMH)の理事会の書記として、また、欧州食品安全機関(EFSA)のBIOHAZパネルメンバーとしてご活躍されています。帰国後にわかりましたが、2023年6月に札幌で開催される「第12回食品中の予測モデリングに関する国際会議」*)に、国際科学委員会メンバーとしてご出席されるようです。

予測食品微生物学は、食品中での微生物の増殖、死滅などの挙動を数学モデルを用いて予測しようとする研究で、食品の製造から流通、消費に至る全過程で有害(病原及び腐敗)微生物の挙動を定量的に解析・予測することによって、食品の微生物学的安全性を確保することがその目的です。

近年ではリスクを基盤とする評価、管理が行われるようになり、また、HACCPに基づく管理が前提となっている現在では、細菌数の変化とともに、どのくらいの確からしさ(確率)で数が変化するのか、あるいはある環境下で増えるのか、増えないのか、といった確率を予測するといった役割も大きくなっているそうです。なかなか理解が追いつきませんが、注目される分野だと思います。

左から、Jacint Arnau博士、若松純一准教授、Ricard Bou Novensà博士

最後になりますが、施設を丁寧にご案内いただきましたJacint Arnau博士、Sara Bover Cid博士、Ricard Bou Novensà博士、そして訪問の機会を与えていただきました若松純一准教授に、改めまして御礼申し上げます。そして、皆様素晴らしい研究者の方々であることを知らずにISO規格について素人の質問をしてしまった私にも丁寧にお答えいただいたことに感謝申し上げます。

引用:IRTAパンフレット Product Quality Programme
IRTAホームページ https://www.irta.cat/en/
*) https://www.ec-pro.co.jp/ICPMF12/welcome.html

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
専務理事 猪口由美