生食用食肉による腸管出血性大腸菌O157集団食中毒
令和5年3月22日に厚生労働省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会が開催され、令和4年に発生した食中毒事件等が報告されました。事件数は962件、患者数は6,856人、死亡者数は5人でした。令和3年に比べて事件数は28件増え、患者数は4,441人減少しました。
死者が発生した痛ましい食中毒事例のうち、食肉に関係する事例がありましたので紹介します。
この事故は、令和4年8月23日から9月8日、京都府宇治市の精肉中心の食料品店が販売したレアステーキ、ローストビーフを喫食したことにより発生しました。(表1)
「レアステーキ」と称する商品は、牛モモ肉300~800gを10kg単位(切り落とし)または4kg単位(細切り、薄切り)でバットに並べ、スチームコンベクションオーブンで300℃6分加熱した後、調理場の調理台で1~2時間放冷、保冷用冷蔵庫(0℃)で2時間保管し、3kg程度ごとに真空包装機で真空パックし、使用の都度、「細切り」、「薄切り」(以上手切り)、「切り落とし」(スライサーで細切)し、樹脂容器に盛り付けて販売していました。
表1 食中毒事件の概要
| 1 発生年月日 | 令和4年8月23日(火)から9月8日(木) |
| 2 発生場所 | 患者の自宅等 |
| 3 原因食品を摂取した者の数 | 推定900名以上 |
| 4 死者数 | 1名(90代女性) |
| 5 患者数 | 40名(入院者6名)(他に無症状者1名) |
| 6 原因食品 | 令和4年8月21日から8月27日に提供された「レアステーキ」、ローストビーフ |
| 7 原因物質 | 腸管出血性大腸菌O157 |
事故原因
京都府山城北保健所によれば、事故の推定原因は、原料肉由来と交差汚染が挙げられています。
原料肉由来については、スチームコンベクションオーブンに入れたときの肉の大きさ、肉の中心温度の測定記録がなかったために、加熱結果が不明であるというもので、原材料肉由来の菌が死滅していない可能性です。
そして、交差汚染の可能性については、次のように指摘されています。
【ソフト面】
①手袋の交換の不備(精肉等加工作業後に、そのままの手袋で生食肉加工作業や包装資材を扱う事例)
②まな板、包丁等の使い分けの不徹底(生食肉加工とネギの刻み作業を同じまな板で実施)
③消毒の不徹底(手袋、まな板、スライサー等消毒不備が散見)
【ハード面】
①スチームコンベクションオーブンは、総菜コーナーにあり、加熱後の室温放冷は、総菜コーナーで行う等動線交差
②生食用食肉の加工場所は、精肉加工場所と兼用
③刻みネギ作業は、精肉加工場所にまな板を置いての作業
ここまでで疑問に思ったことがあります。そもそも生食用食肉を取り扱うためには、飲食店営業許可の他に、生食用食肉取扱業の届出が必要なのでは?それはなされていたのか?ということです。
本部会では、この施設は生食用食肉の届出は出されていなかったことが報告されていました。その点について、京都府山城北保健所は「営業停止処分に当たり、社長にただすも、最後まで「あれはユッケではない。ユッケかレアステーキか業界でもあいまいだ。」と認めず。」と報告していました。
私たちからすれば驚くような発言ですが、当該商品を「レアステーキ」と認識していたのであれば、事故は起きるべきして起きたとも言えます。
京都府山城北保健所は、「HACCPの考えを取り入れていれば、リスク管理のできていない生食肉メニュー等は提供できないはず。」、「形ばかりのHACCP義務化にならないよう、指導継続が必要」と結んでいます。
この事故を踏まえ、厚生労働省は令和4年9月16日付けで、「腸管出血性大腸 菌による食中毒防止の徹底について」(薬生食監発0916第1号厚生労働省 医薬・生活衛生局食品監視安全課長通知)(https://www.mhlw.go.jp/content/000991923.pdf)を発出しました。その中で「・・・なお、食肉の表面を焼いた後に冷却したもので、中心部まで十分に加熱されていないものは、生食用食肉として取り扱うこと。」と明記されました。
保健所の指摘にあるように、HACCPの実効性、食肉の取扱いについての正しい理解と教育の重要性を再認識しました。
そしてもう1つ、食品の『定義』というものは、食品表示のルールという位置付けだけでなく、生産から消費まで安全に取り扱う上で大事なものと感じました。
*薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会資料(令和5年3月22日開催)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31030.html

文責:一般社団法人 食肉科学技術研究所
専務理事 猪口由美



